発言席
混沌電話
相原 由美
1
1お産の教室
pp.797
発行日 1989年10月10日
Published Date 1989/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207821
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毎日さまざまな相談電話を受ける。「お産の教室」に参加した妊婦が出産直前の不安を訴える電話が多い。一度会ったことがあるといっても私は人の名前を覚えるのがにが手である。参加者リストを繰りながら,欄外に書かれたメモをたよりに本人を思い出そうとする。面接時のからだの状態の記録よりも,この人は何回も病院を変えた人だったとか,嫌いなレバーの料理法を得意気に教えてくれた人だったとか,思い出す方法もいろいろ。
たいした人数でもなく,かたてまにやっていてもこの調子である。保健所で働く人たちは,毎日,出産だけでなくたくさんの住民と対応するのだろう。だから,1人1人のからだの状態や生活環境など,記憶するのは神わざだと思う。しかも,相談電話をかけてくる側は,当然,私と1対1の対応しか覚えていない。あのとき話した内容,私の対応をみごとなくらい鮮明に記憶しているのだ。だから,電話の出だしは必らずといってよいほど,面接時の次の段階から唐突に始まる。受話器を取り上げるや否や,「○○ですけど,私まだ直らないんですけど……」といった具合。どこの○○さんでいつ頃の○○さんなのか,いったい何がまだ直らないのか,その問いを会話のなかでたぐりよせる作業から,私は始めなければならない。
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