Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「キャタピラー」―両手足を失った兵士をとおして戦争を見る
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.993
発行日 2010年10月10日
Published Date 2010/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101880
- 有料閲覧
- 文献概要
和歌山県太地町のイルカ漁を糾弾するドキュメンタリー「コーブ」(2009,米)は,アカデミー賞受賞作品にもかかわらず,一部団体の街宣行動等の影響で上映中止の動きが広がる.勿論そんな事態を看過できるはずもなく,その後は,映画館側の努力で上映館も着実に増える.まずは表現の自由が機能していることに安堵したのだが,本作に納得できるかと問われれば,答えはノー.たとえば,女性メンバーの一人は殺されるイルカに思いを馳せ,ホロリと涙の一滴を落とす.その時,私の脳裏に去来した言葉は,次のようなもの.
「ウィンター・ソルジャー」(1972,米)や「ハーツ・アンド・マインズ」(1974,米)に収められた証言でも明らかなように,東洋人は人間ではないから殺しても構わないとする差別思想によってベトナムで300万人もの人々を殺戮し,さらに,環境破壊と奇形障害者を生み出す枯れ葉剤を十年にもわたり散布し続けたことをどう思っているのか.その事実を知ったとき,あなたは涙を落としたのか.日本に来てカメラを回すなら,太地町の前に広島,長崎があるだろう.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.