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はじめに
脳外傷や脳血管障害,低酸素脳症などの後遺症として残存する高次脳機能障害は,身体障害がない場合には外見上わかりにくく,家族さえもその病態を理解しがたいため,患者・家族ともに困惑してしまい,家庭生活ではお互いに葛藤が多い.働き盛りの青壮年層のくも膜下出血や若年層の交通事故による脳外傷がもたらす高次脳機能障害は,深刻かつ重大な心理社会的問題を引き起こす.
このような事情を背景に,厚生労働省は2001年度より高次脳機能障害支援モデル事業を実施した.福岡県は,県・北九州市・福岡市が共同で,この事業に参画した.このモデル事業は,当初,「診断基準班」,「訓練プログラム班」,「社会復帰・生活・介護支援プログラム班」の3つの作業班で構成され,福岡市立心身障がい福祉センター(以下,当センター)は福岡市より2002年度にこの事業を委託され,社会復帰・生活・介護支援プログラム班を担当した.
従前より,高次脳機能障害者の就労を含めた社会復帰が困難であることは周知のことである1).30年程前から,脳外傷後の高次脳機能障害に対する有効なリハビリテーションが世界中で模索され,Goldsteinの考えを継承したBen-Yishay, Dillerらによって実践されたholistic neuropsychological rehabilitationの効果が次々と報告されている2-11).当センターでは,この社会復帰に関する作業班を担当するにあたり,社会参加を促進する有効なリハビリテーションを模索した結果,包括的・全体論的リハビリテーションプログラムを導入・実践することにした.このプログラムの定義は,Ⅰ.神経心理学的方向付け,Ⅱ.統合的治療,Ⅲ.グループによる介入,Ⅳ.専用の資源,Ⅴ.チームの一員に神経心理学者が存在,Ⅵ.近親者の正規な参加,Ⅶ.試験的な雇用あるいは自立生活,Ⅷ.多面的な結果の評価が行われること,である.このプログラムは多彩な症状を考慮して組み立てられており,これを受けた者は,認知や情動機能などが改善し,71%がボランティアや雇用につくことができたと報告されている2).
当センターは,この包括的・全体論的リハビリテーションを2002年度より導入し,医療と福祉の両方の機能をもつ身体障害者福祉センターA型という利点を生かしながら,現行の医療制度の枠組みのなかで高次脳機能障害者の社会参加を推進している12,13).
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