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はじめに
脳機能に対するリハビリテーションの効果は,初期の一過性障害が消失した後の後遺症(慢性の障害)が回復する場合のみに言及できるとされている.脳機能回復に関する歴史をみると,脳損傷後の機能回復についての研究,臨床がともに注目され始めるのは,19世紀前半に,Brocaをはじめとする研究者によって大脳局在論が成立する以降である.
認知リハビリテーションという用語は,1970年代から使用されはじめた.それ以前の1940~1960年代に代表される研究者,Goldstein1),Luria2),Zangwill3)らの理論は,脳損傷後の脳機能回復の根底にある臨床的概念や現象の解明に多大な貢献をした.同時期,日本では,大橋4)が「臨床脳病理学は巣症状への臨床観察が出発点である」と述べている.諸家の理論については他稿を参照されたい.
認知リハビリテーションを行う際,①歴史上の諸家の理論,②近年の脳科学の知見,③脳画像診断による病変部位の特定,④疾患の特徴などを知ることは,当事者が自分の高次大脳機能の状態を理解することにつながり,治療者が患者の現象学的な場に入ることを可能にした.治療者は,脳画像診断により病変部位から予測可能な神経心理学的障害や症候群を見立て,神経心理学的面接により障害や症候群がどのような脳機能に影響を及ぼすかを把握し,神経心理学的検査5)によりその障害や症候群がどの程度のものかを評価する.これらの評価結果から,残存機能と機能低下それぞれに対して構造的に認知リハビリテーションプログラムを作成し,残存機能を活かし,機能低下を回復させるための段階的アプローチを行う.
認知リハビリテーションプログラムの作成には,検査結果に基づく治療仮説が必要であり,その仮説には歴史上の理論や脳科学の知見などによる裏づけが必要である.治療者は,自分がどのような治療を行うのかを明確に理解しなければならない.筆者は,歴史上の諸家が脳画像診断のない時代によく患者を観察していたことに感銘を受ける.このことは,現代のわれわれに“観察力”の重要性を教示しているのだと受けとめている.
今回,認知リハビリテーションのなかで,認知課題(ドリル,器具)6-9)をどのように用いて領域特異的な直接訓練10-12)を行うかについて,症例を通して紹介し,認知課題に関する今後の展望に言及したい.
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