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はじめに
リハビリテーション医学は,いわゆる科研費申請上の分類では「リハビリテーション科学・福祉工学」という細目に位置付けられている.リハビリテーション医学に関わる研究・開発の多くが,リハビリテーション工学あるいはほぼ同義の福祉工学の領域に境目なく存在することがうかがわれる.そもそも,リハビリテーション医学は20世紀初頭,米国の電気・放射線医学に端を発していて,工学や物理との関連が深く,他の医学領域に比べて医療サイドの工学に対するアレルギーは少ない.また,リハビリテーションに不可欠な車椅子,義肢といった機器は工学的アプローチなくしてはすぐに陳腐化してしまい,新たな展開にはリハビリテーション工学が欠かせない存在となっている.実際,コンピュータ制御の義肢やハイテクの訓練機器などは日本リハビリテーション医学会や義肢装具学会の学術集会でもトピックスとなっている.リハビリテーション医学の対象の中心をなすのは「動き」の障害(dysmobility)であるが,歩行や日常生活動作といった「動き」を工学的な介入で支援するのはリハビリテーション工学の基本的モデルでもあり(図1)1,2),まさにリハビリテーション医学にとってリハビリテーション工学は隣り合わせの領域たる由縁である.ちなみに支援技術(assistive technology)は情報技術(information technology)のITに対比してATと呼ばれている.
リハビリテーション工学の視点からみたときには,その源流は1979年に創設された北米リハビリテーション工学・支援技術協会(RESNA)2)に始まり,本邦における1986年の日本リハビリテーション工学協会(RESJA)発足につながっていることがわかる.協会のSIG(special interest group:通称シグ)をみると,義肢装具,車椅子,自助具,移乗機器,座位保持装置,障害者用自動車,褥瘡予防技術,障害者・高齢者住環境,コミュニケーション支援,障害者教育支援といった内容が挙げられていて,リハビリテーション医学と共通テーマが多い.日本リハビリテーション工学協会は障害者のための技術,機器開発を前面に掲げているが,その基礎は健常者の人間工学にあり,本邦では1964年創設の日本人間工学会や,すでに28回を数えるに至ったバイオメカニズム学会の関与が大きい.最近では障害者よりも高齢者に対象を拡大して1999年ヒューマンインタフェース学会が発足し,さらに産官の声も加えて,2000年には日本生活支援工学会が設立された.またバリアフリーの流れは日本福祉のまちづくり学会へと発展し,これら領域への関心の高まりをうかがわせる.
リハビリテーション工学は福祉機器という言葉に象徴されるようにハードウェアに重きをおいているが,最近ではIT発展もあって,障害者のパソコン操作など情報アクセスのためのソフトウェアにも焦点があたっている.それを反映する一つが,電子情報通信学会の下に設けられた福祉情報工学研究会である.従来より,リハビリテーション工学の対象の一つであったが,それが特化して一つの研究会に発展したものである.電子情報AT(e-AT)と呼ばれる.一方,従来はなかったものがリハビリテーション工学の対象に数えられつつあるのが,ロボット工学のリハビリテーション,介護への応用である.障害者のADL(activities of daily living)支援,コメディカルの療法支援,さらには介護者の負担軽減のためのATとしてセンサやアクチュエータ,インピーダンス制御といったロボット技術が応用されている.
どちらかというと,リハビリテーション医学は疾患・機能障害ベースの医療サイドに近い領域,リハビリテーション工学は能力低下・社会的不利の視点で福祉サイドに近い領域により大きな関心があったが,ともに障害者を対象にしてきたことに変わりない.しかし前述したように,関連工学の焦点は「障害者のための…」ではなくて,「障害者・高齢者のための…」と拡がってきた.リハビリテーション医学・工学ともに障害に対応したパーソナルな支援技術・機器の開発,適用に力を入れてきたのであるが,高齢者が加わったことで健常者にも共通のもの,つまりユニバーサル・デザインの重要性が唱えられるようになった.この流れは共用品という概念に結実している.障害の基本概念が医療者用の国際障害分類(ICIDH, 1980)から,より一般向けの国際生活機能分類(ICF, 2001)3)へ変遷した時期と一致した国際的潮流と言える.
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