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1.はじめに
リハビリテーション医学がわが国に誕生し,10年の歳月を経て,最近ようやくその重要性が認識されるようになってきた.
リハビリテーション・プロセスの中には,工学知識を必要とする内容が比較的多く含まれているためか,単なる技術者のみならず,工学者がかなり参画してきた.昨秋,筆者が欧米を訪問した折にも,これら工学者達の間で,リハビリテーション工学(Rehabilitation Engineering,略してREと記す)という新語が使用されたのを耳にした.
REは,まだ誕生したばかりであるから,その内容は十分体系化されているとはいえない.しかし,この言葉の生み出されるに到った背景をたどることにより,今後の形態を知るよすがは得られる.
医学と工学の境界へ,工学側で最初に接触を持ったのはME(Medical Electronics)領域である.日本ME学界が本年創立10年となったから,リハビリテーション医学とほぼ同じ時期に設立されたことになる.当時は,診断,治療に電子機器を利用し,あるいは電子計算機を導入する試みが医学面で行なわれ,対象内容の把握の意味で工学者も参加した.
その後,制御工学が発達するにつれて,動的状態の変移の記述と合目的的な設計とが比較的容易にできるようになってMEはいつしかMedical engineeringと呼ばれるようになった.さらに脳や神経,あるいは運動筋の機能を一つの制御システムとして解析する工学者が出現してBE(Bio Engineering,生体工学)を生み出し,生理学や運動学と協同研究をするようになった.
その研究結果を利用して,筋電位を情報源として義肢を制御したり,触覚を人体に付与するような試みが一部では行なわれた.
工学が近時境界領域に進出し始めたのは,制御工学理論の発達に基づいている.それは,あるシステムへの入力(原因)と出力(結果)とを微分方程式で結びつけることが可能になったためである.このシステム的な把握は,対象を機械のみに限定せず,人間―機械システムにまで拡張された.そしてシステム工学を作り出して,リハビリテーション・システムに結びつきREを誕生せしめたと考えうる.
そこで筆者は,浅学をも省みず,まだ未文明なREをあえて体系化し,諸賢のご批判を仰ぐことにした.
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