Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ヴァージニア・ウルフの『病むことについて』―病者の感性と創造性
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.794
発行日 2003年8月10日
Published Date 2003/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100877
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1926年にヴァージニア・ウルフ(1882~1941)が発表した『病むことについて』(川本静子訳,みすず書房)には,「病気のもたらす精神的変化がいかに大きいか,健康の光の衰えとともに姿をあらわす未発見の国々がいかに驚くばかりか」という冒頭の一句が示すように,病いの精神面に及ぼす影響の大きさが描かれている.
このエッセイの中でヴァージニア・ウルフは,インフルエンザにかかった患者には世界がその相貌を変え,「人生の全風景が,はるか海上を行く船から眺めた陸地のように,遠く美しく横たわる」と,病気になることで人生や世の中の見え方が変わってくると強調する.彼らには,仕事道具が遠ざかり,祝祭のざわめきも野原の向こうから聞こえてくる回転木馬のようにロマンティックなものとなるのである.またウルフは,病気には「子どもっぽい率直さがともなう」とも語る.病者は,「健康なときには用心深く世間体を考えて隠すようなことを口にし,ほんとうのことをうっかり言ってしまう」.いわば病者は,正義の人々からなる軍隊の兵士たることを止めて脱走兵になり,健康な時にしなければならなかった親切なふりや努力するふり,同情するふりなどをしなくても済むのだ.
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