Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ベラン・ウルフの『どうしたら幸福になれるか』―美しさという障害
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.1198
発行日 1998年12月10日
Published Date 1998/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108831
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人は誰しも美に憧れるが,W.B. ウルフの『どうしたら幸福になれるか(上)』(周郷博訳,岩波新書)には,容貌の美しさもまた一種の障害たりうるという考えが示されている.
本書の第Ⅲ章「障害について」の中で,ウルフは,「たいへんに美しい子供はひどいハンディキャップをもった子供だ」として,美しい子供にもたらされる災いを次のように述べている.すなわち,多くの精神科医や教師は,「自分の美しさに甘やかされたために,現実の世界に生きて行くことができなくなってしまった」子供を知っているが,それは,「美しい子供は,彼あるいは彼女の美しさが,社会が彼にもとめるただ一つの値打だ,という気持をもって成長する」からである.美貌に恵まれた子供は,「美しいということだけで,世の中は彼の値打をみとめているのだという誤った考え」を持ってしまうために,「人をやっつけるにも自分を守るにも,自分の美しいことを,彼がもっている唯一の武器としてみがきあげる」.その結果,「自分の人生の興味を身体の美しさにかけてきた美しい子供は,浅はかな虚栄心でその美しさを大方駄目にして」しまい,年をとった時の支えになるものを何も持っていないので,「精神的に破産し,自殺をし,あるいは,世間の人気や注意を得るすべもなくゆううつ症に苦しむことになる」と,ウルフは主張するのである.
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