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はじめに
脊髄損傷者にみられる麻痺域の痛み(求心路遮断性疼痛1,2))は脊髄損傷者の尊厳やQOL(quality of life)3)を脅かす重大な合併症の一つである.この脊髄損傷者の求心路遮断性疼痛は,一旦発症すると臨床的に慢性痛で難治性となることが知られているが1,2),一体何故,難治性になるのであろうか?
脊髄損傷は,その人の人生の中途での外傷(交通事故,労働者の高所からの作業中の転落,高齢者の平地での転倒や若年者でのスポーツなど)を契機に重度の麻痺が発症する4,5)悲しい辛い病態である.治療に携わる医療従事者と脊髄損傷者の家族の心は痛む.しかしながら,受傷直後の脊髄損傷者は,横たわっている自分がどうなるのかへの不安とともに,四肢の感覚情報が認知できずに何とか自分を取り戻そうと必死な目をしているが,経験上,むしろ痛みの訴えは少ないように思われる.
つまり,脊髄損傷者でも治療者においても,受傷早期の最大の関心事は生命の維持とその危機管理である.そして,生命維持が急性期の治療の恩恵で期待されると,機能的なニーズが当事者の次の関心事となる.さらに,機能的な改善が脊髄損傷者が期待したほどに得られない場合には,不安や抑うつ症状を伴って,しばしば多彩な難治性の痛みとして表現される.回復期の不全麻痺の多くでは神経機能の改善にもかかわらず,麻痺域の疼痛が時間とともに増強し,その後のリハビリテーションや日常生活を阻害する重大な要因となることを経験する3).この回復期から慢性期の時点では,治療者は脊髄損傷者の訴える痛みの意味をよく聴取する態度が大切になる.
本稿では,脊髄損傷にみられる求心路遮断性疼痛の発生機序,疼痛の臨床的特徴,発症頻度,関連する要因,治療方法について,自験例の分析結果も交えて概説する.
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