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はじめに
中枢神経障害によって生じる中枢性疼痛のなかで視床痛は代表的な難治性の慢性疼痛である.リハビリテーションにおいて,視床痛がしばしば問題となる.抑うつ的な気分になり,治療も十分行えず,ADL(actvities of daily living)は低下してしまう.さらにこの痛みが患者を自殺に追い込むこともある.
痛みの起こる部位は局在性に乏しく,罹患側全体に放散する傾向がある.視床痛の最も多い原因は脳血管障害である.腫瘍性病変では視床痛を訴えることは少なく,脳膿瘍による症例報告が散見されるのみである1).
痛みの性質は,いまだかつて経験したことのない痛み,うずくような痛み,ズキズキする,チクチクする,剣山でこすられたような痛み,重圧感,腫脹感などと表現される.痛みの程度は不快感を持つ程度から耐え難い激痛までさまざまである.激しい苦悶や不安などの情動反応を示すこともある.
視床病変部位は疼痛信号の伝達,中継を行う視床亜核で,それが視床血管障害急性期に何らかの影響を受けた後,さまざまで広範な機能変化を生ずることが疼痛出現の大きな要因であることが報告されている2).
視床痛に対してさまざまな治療法が試みられている.一般的には薬物療法として抗うつ薬,抗てんかん薬,抗不安薬が用いられ,単独ではそれほど効果が得られないため併用されることが多い.しかし,患者が満足のいく効果を得るのは困難である.外科的治療法としては定位的脳手術,電極植え込み式神経刺激法などが試みられているが,根治は難しい.ガンマナイフも低侵襲で中枢性疼痛や難治性三叉神経痛が治療対象となっている2).また,モルヒネ,コデインなどの麻薬が注目されつつある.嘔気,嘔吐,便秘の対策,麻薬管理ができるまで患者の服薬指導が必要であるものの,効果的であるという報告がなされている3).
当センターでは視床痛に対して塩酸ケタミンの微量点滴療法を除痛に試みているが,副作用は自発的ふらつき感のみで簡単に使用でき,効果的であった.これまでの治療法にも劣らない治療方法と考えている.そこで,視床痛の発生機序に触れて,塩酸ケタミンの使用経験を述べることとする.
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