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障害を受容するとはどういうことか
人生の途上で障害を負った患者の「障害受容」は,リハビリテーション心理学の分野における大きなテーマであり,患者の心理ケアの問題として取り上げられてきた.脊髄損傷者は,身体障害に限定して急激な変化が生じるが,脳損傷を伴う脳卒中患者のように認知機能の欠損を伴うことがないため,突如人生に大きな変化を迫られる.受傷後早期から喪失の事実に直面しなくてはならない患者のショックと当惑は,想像に難くない.
高橋ら1)は「障害受容」理論の流れを概観し,わが国では上田により障害受容の各段階が5段階に整理され,Wrightの4価値転換説が障害受容の本質として紹介されたが,1990年代後半には,段階理論への批判的な意見が出現したという.南雲2)は,WHOによるリハビリテーションの目的は,障害者を訓練して環境に適応させることのみならず,障害者の社会統合を促進するため直接的環境や社会全体に介入することでもあり,当事者に適応を求めるだけでなく,社会(家族を含む)を変えて,社会が障害者を心から受け入れるようにする「社会受容」の視点をもつべきであると述べている.また,大田ら3)は対談で,そもそも「acceptance of disability」におけるacceptanceの訳は「受容=受け入れ」より「承認」がふさわしく,障害がどういうものかを本人も周りもきちんと知りなさいということだったのではないかと語っている.たとえば,損傷の程度が重く完全麻痺である胸髄損傷者の場合,ごく早期から,歩けるようにならないものとして車いすを使ってのactivities of daily living(ADL)自立がリハビリテーションの目標になる.患者は,自分は歩いて家に帰るつもりだと語る一方で,車いすの操作や移乗動作の習得の訓練を積極的に行っていることがある.この場合,脚は動かなくなった,もう歩けないと告げられた事実を「受容」しているとは言いがたいが,「承認」しているのではないだろうか.
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