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脊損不全麻痺患者の歩行訓練の問題点
近年,転倒・転落による高齢者頸髄損傷(以下,頸損)の増加と積極的な外科的治療法の採用により,不全麻痺の脊髄損傷(以下,脊損)患者が増加している傾向がある.また,近未来的には脊髄移植の臨床応用化がなされれば,術後の患者の状態は不全麻痺の状態に近いものと推察され,今後,不全麻痺患者に対するリハビリテーションはますます重要となると思われる.しかし,従来の脊損に対するリハビリテーションは主に完全麻痺者を対象にしており,麻痺の改善よりも,残された機能を使って日常生活を営めるようにする訓練が主体になっている.また最近のように,入院期間の短縮が政策的に押し進められているため,短期間で治療目的を達成するためには,機能障害(impairment)の回復よりも代償機能を活用しての能力障害(disability)の改善に重点が置かれる傾向にある.
歩行には姿勢,バランス,体重負荷,疲労耐性,協調運動等の各要素が複雑に関係しており,脊損不全麻痺患者の歩行を再建するとき,task-specific physical therapy(課題指向的訓練)が望ましい.しかし,早期からの訓練が望ましいのは明らかでも,立位保持ができるほど下肢筋力がない不全対麻痺患者や,下肢筋力を代償できるほど上肢筋力がない不全四肢麻痺患者では,歩行訓練はある程度の下肢筋力の回復を待ってからしか行えない.また,下肢に較べて上肢の筋力が弱い中心性頸損者では,上肢の助けを得て立位,歩行することができないため,下肢の筋力が弱ければ歩行訓練はできない.下肢筋力あるいはバランス機能の不十分な患者を早期から歩行器,杖等で歩かせることは,上肢の負担が大きく,上肢の障害のため訓練を中止せざるを得ないこともある.また,非生理的な負荷を下肢の関節にかけることになり,それによる障害も心配であるし,セラピストの負担も大きく腰痛などの障害が起こる恐れもある.
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