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はじめに
中枢神経系の損傷によって生じる片麻痺では,経過とともに筋緊張が亢進し,下肢では伸筋群優位の痙性麻痺を示す場合が多い.下肢伸筋群の緊張亢進は体重支持に必要な要素であり,麻痺側への荷重が可能となることは歩行の前提条件となる.一般に,片麻痺患者が歩行を実現するためには,まず麻痺側下肢近位筋群における一定の筋力と筋緊張の回復が必要であり,初期段階の理学療法では荷重訓練や振り出しの介助によって,麻痺側筋群へのアプローチが行われることも多い.
しかしながら,重度の片麻痺では筋緊張の低下が遷延し,麻痺側下肢の支持力がなかなか得られない例もみられる.これらの患者では膝折れ防止のためにしばしば長下肢装具が処方され,膝をロックした状態での荷重,歩行訓練が行われることもある.しかし,こうした形での歩行訓練には相当の時間を必要とし,結果的に実用歩行の獲得に至らない例も多く経験する.また,装具による膝固定は随意的な膝関節運動を妨げるため,下肢の振り出し動作を円滑に行うために必要な随意的な下肢筋活動の再獲得には,むしろ不利となる可能性もある.
麻痺側下肢の筋力や筋緊張に十分な回復が得られない場合にも適用可能な,もう一つの方法は電気刺激の活用である.従来,麻痺肢に対する機能再建あるいは機能補助としての電気刺激は,大きく機能的電気刺激(functional electrical stimulation;FES)と治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation;TES)に分けられてきた1).失われた機能を外部からの神経刺激によって再建しようとするFESに対して,TESは神経への遠心刺激(末梢効果)と求心刺激(中枢効果)を通じて,筋力強化や過剰な反射活動の抑制をもたらす,機能調整的な治療手段と位置付けられる.しかし最近では,これら2つの立場に加えて,課題達成のために電気刺激を用いて集中的な治療訓練を行う手法としての,functional electrical therapy(FET)の概念が提唱されるようになった2).これは電気刺激を運動療法などと同列の訓練手段ととらえ,麻痺肢の機能再建や機能調整ではなく,あくまでも機能回復を促進しようとする考え方である.
本稿では,電気刺激を用いたFETとしての歩行訓練を概説し,われわれが重度片麻痺患者を対象にこれまで行ってきた方法とその結果を紹介する.
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