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はじめに
脳外傷traumatic brain injury(TBI)における疫学では,脳外傷の罹患率(incidence),年齢,性別,受傷原因,重症度,脳外傷後遺障害の有病率(prevalence)などを調査する.調査結果は,脳外傷発生予防プログラムや脳外傷者への適切なサービス提供に用いられるものと期待される.
脳外傷の罹患率とは,新しく脳外傷と診断された事例である.したがって,入院患者だけでなく,事故現場での死亡例や急患室の処置を受けただけで自宅へ帰された患者など,すべてを含むべきである.そして調査は,決められた期間,決められた地域の住民を対象に,単位人口(通常は10万人)あたりの例数として示されるべきである.しかしながら今までの研究において,軽症例や死亡例が数えられていなかったり,期間や対象地域が一定でなく,そのため罹患率の解釈や比較に困惑する場合が多かった.
疫学調査の結果は,脳外傷発生の予防や対応の改善を目的とした行政的施策へ反映される.これが国の施策であれば,疫学調査を全国規模で行う必要がある.
すなわち特定の地域の住民について行った調査は,その地域の特性を示す.したがって全国調査では,別の地域の住民に対しても同じ方法で調査を繰り返し,得られた結果を総合的に分析する手順が必要である.こういった全国規模の調査には,多大な経費と地方自治体やさまざまな組織の協力,および診療録に基づく調査を可能とする法的裏付けが必要になる.わが国で,脳外傷について国が大規模な疫学的調査を行ったことはない.
一方,米国では1980年代に研究者の指摘などがあって,脳外傷が公衆衛生の立場から注目を集め,全米規模の疫学調査が行われるようになった.本稿では,米国における疫学調査を紹介し,ついでわが国における疫学調査について触れる.
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