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はじめに(表1)
交通事故や転落などを原因とした脳外傷患者では,運動麻痺,失調,振戦などの多様な身体的障害のみならず,注意障害,記憶障害や遂行機能障害などの高次脳機能障害が問題となることが多い1).脳外傷患者の多くが20歳代を中心とした学生や労働者であり,これらの障害により就学や就労が困難となる.さらに患者や家族の経済的,心理的負担は計り知れなく,社会における損失はきわめて大きい.運動障害が軽微の場合は身体障害者手帳の対象とならず,また,高次脳機能障害に有効と考えられている「認知リハビリテーション」2)が保険診療の対象外であり,脳外傷患者とその家族は医療と福祉の狭間で苦しんでいるというのが現状である.
1990年に大橋らが,米国での脳外傷のリハビリテーションに関してその特殊な障害像と先進性に触れ,日本の立ち後れを指摘し,その問題点と今後の課題を提示した3-4).この問題提起以降,リハビリテーション関連の雑誌や学会で脳外傷の特集が時々組まれ5-9),マスメディアでも取り上げられるようになってきている10).その結果,行政側も少しずつ動き始めている.1999年,東京都衛生局は東京都における高次脳機能障害者の実態調査を施行した11).国土交通省は,自動車損害賠償保険法における高次脳機能障害の認定を行うシステムを確立・運用する方針を打ち出した12).これにより,自動車保険料算定委員会は2000年8月から12月まで検討委員会でこの議題を審議し,2001年1月より新しいシステムに基づく高次脳機能障害の認定作業を開始した.また,厚生労働省は「高次脳機能障害者支援モデル事業」の方針を打ち出し,これにより2001年7月より全国12拠点病院と国立リハビリテーションセンターが今後の施策のためのデータベース作りに着手している13).
1997年よりわれわれも,米国の脳外傷モデルシステム(Traumatic Brain Injury Model Systems;TB-IMS)のデータベースシラバスを参考に,日本での脳外傷患者の共通データベース作りを開始した(図1,表2)1,14).
本稿ではまず,米国で脳外傷患者に用いられているデータベースを紹介し,われわれの旧データベースから得られた脳外傷患者の特徴的な障害像について概説する.次に,これまでの経験や文献的考察に基づいて,脳外傷のデータベースとはどうあるべきかを検討し,最後にわれわれの新しい簡易版のデータベースの試案を提示したい.
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