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リハビリテーション医療は,運動療法や言語聴覚療法における学習の成果が治療効果を左右する点で,他の医療とは異なった治療体系を形成している.機能を扱うリハビリテーション医療の発展は,学習理論に裏付けられた環境や手段を臨床に積極的に導入し,その結果として得られた治療効果について検証を重ねることに委ねられていると言っても過言ではない.
リハビリテーション医療においては,義務教育で行われる読み書き学習のような新たな規則を教育することは少なく,元来は行えていた既知のスキルを,適応や代償を用いて再構築する過程に関与することが多い.その学習過程を考えるうえで,以下の2つの不利を認識しておく必要がある.第一に,学習を始めるための動機は,人間として生活していくための生理的動機によることが多く,しかも,障害が残存している場合には,自らの経験によるイメージとは異なるスキルの習得が目標とならざるを得ないこと,第二に,治療者(教育者)には,障害をもつ患者(学習者)と同じ条件下で,目標とするスキルの手本を示す(モデリング)ことはできず,むしろ達成するべき具体的な目標がみえないまま学習が進められている場合が少なくないこと,である.身体機能に関わる問題は不満足に直結し,学習成果について患者の満足感が得られにくい側面があることを認識したうえで,学習過程における入力と出力の関係を詳細に評価しながら,その成果を治療体系に組み込んでいく必要がある.学習理論に基づくリハビリテーション医療には,他の医療にもまして,患者の価値観を重視し,障害によって誘導される適応と代償の特性を深く考慮しながら,治療によって何が実現できるのかを,明確に提示できるようにしていく努力が求められている.
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