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はじめに
理学療法においては,異常動作(逸脱動作)そのものが評価・治療対象となるため,動作の客観的な評価が重要である.特に歩行動作は,臨床で理学療法士がかかわる機会も多く,さまざまな評価手法が開発されている.
歩行動作を定量的に評価する手法としては,① 三次元動作解析装置などの光学式モーションキャプチャを用いて計測する手法,② 加速度・ジャイロセンサなどのウェアラブルセンサを用いて計測する手法,③ 圧センサや光学式分析装置を床に設置して歩行の時間・距離因子を計測する手法などが確立されている.
表に ①〜③ の代表的な歩行評価手法とその特徴を示した.計測精度が高く,計測空間の制約がなく,計測準備や解析が容易で,体表マーカやセンサなどの装着の必要性がなく,可搬性が高いといった,計測時の要求をすべて満たす手法は存在しないのが現状である.そうした理由もあって,リハビリテーションの臨床現場においてこれらの計測器は十分には普及しておらず,歩行動作の評価は観察による主観的評価や歩行パフォーマンステストによる効果判定が主となっている1,2).
筆者らはこれまでに,脳卒中片麻痺者の下肢装具の開発3〜5)や効果的な装具療法6,7)について研究を行ってきた.片麻痺歩行における下肢装具療法の効果判定としては,歩行速度や歩行耐久性といった歩行パフォーマンスによる評価がよく用いられている.一方で,片麻痺歩行の特徴は左右の非対称的な歩行パターン(歩容)にあり,片麻痺者の歩容は歩行速度の影響を受ける8)ことが明らかになっている.そのため,片麻痺歩行の評価は歩行パフォーマンスと歩行パターンのどちらか一方のみでは不十分であり,両者を包括的に評価することが重要な課題であると考えている.
筆者らは,臨床現場における片麻痺歩行の客観的かつ包括的な歩行評価を支援する目的で,新たなシステムの開発を行っている.具体的には,市販の小型カメラ1台で撮影した歩行動画から人工知能(artificial intelligence:AI)技術を活用して,歩行の時間・距離因子を検出し,歩行パフォーマンスと歩行パターンのデータを同時に算出する臨床指向型歩行評価システムである.
本稿では,開発中のシステムの概要について紹介し,その他の小型カメラの理学療法活用例として,理学療法分野でも活用事例の多いオープンソースソフトウェアであるOpenPoseとOpenCapに触れる.
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