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新しい症候は名づけられて初めて臨床的存在になると考えられます.Davies(1985)が記載した「押す人症候群」は,それまで臨床家がうすうすは気づいていた症候をまとめ,臨床的特徴を記載したことで重要な視点をあらためて差し出してくれたのだと思います.当初は,片麻痺が重度であれば麻痺側に倒れていくのは当然なので,pusherの存在自体を疑問視する声もあったようです.しかし,特に理学療法士はこの症候の重要性にいち早く気づき,爾後多くの研究が行われるようになりました(エディトリアルを参照).Pusher現象を「高次脳機能障害」の範疇として位置づけることができるかは,なお議論の余地があるかもしれませんが,患者本人が矯正に対してかえって抵抗することや,その意思とは逆に倒れていくことを見ると,単に一次的な麻痺や感覚障害では説明がつかないのでこのカテゴリーに帰属させることができると思います.森悦朗先生が「道具の強迫的使用」について記載し(臨床神経1982;22: 329-335),本人の意思で制御できない行動が起こることを示したことと思い合わせれば,四肢体幹にもこのような「制御困難」が起こり得るのではないでしょうか.
そこで本号の特集では,現在本邦において,この領域で精力的に活躍されている著者の方々に多角的に論述していただきました.すなわち,「出現率,経過そして病巣」(阿部論文)では画像評価,発生率,経過分析について,「生起メカニズム」(藤野論文)では垂直性,運動出力,なぜ抵抗するのか,半側空間無視との関連について,「評価方法」(沼尾論文)では各種の臨床評価の信頼性,妥当性について述べていただきました.さらに「臨床特性」(万治論文),「起居・移乗動作へのアプローチ」(中山論文),「認知神経リハビリテーション」(生野論文),「ニューロモジュレーション」(中村論文)と臨床現場からの考察がなされています.おそらくpusher現象だけでまとまった特集は初めてであり,読み応えのある特集になったと自負していますが,いかがでしたでしょうか.
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