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最近の報道のなかで最も関心が高く耳目を引いたのは,マンションやホテルの耐震構造偽装事件でしょう.快適で安全なはずの新築物件が危険なコンクリートの塊であったとは,居住者(被害者)の無念は察するに余りあるといえます.この事件の問題は,外見からは判断できない内部構造の欠陥があらわになったという点で,ミニマムのリスク管理すら行われていなかったことにあるようです.
医療現場ではもともといのちにかかわるという特質上,建造物とは比較にならないほどリスク管理の重要性が認識されています.生体に対して何らかの治療介入をすることは,リスクを冒すことと表裏の関係にあることを改めて感じます.さて今号の特集は「物理療法の有効性とリスク管理」です.今では病院内での携帯電話の使用禁止は常識であり,通勤電車の優先席付近での電源オフも強調される時代ですから,「電磁波」が何か悪影響をもたらすだろうということは周知のことです.そこで理学療法の中でもこの電磁波に深く関わる物理療法の有効性とリスクを再度確認することは大変有意義なものと考えます.杉元論文では物理療法の全体的なリスク管理について述べられています.医療事故分析に関するSHELモデルや4M-4E公式の紹介など興味深い論文となっています.烏野論文では,電気刺激療法について包括的なレビューと最新の展開について論じられており,生体および治療機器の特性を知ることが重要であると指摘されています.木山論文では超音波療法の有効性とリスクについて,非温熱作用を含め論じられており,キャビテーションに関する薬物促進の最新の知見が紹介されています.岡崎論文ではホットパック,パラフィン療法などの生理学的効果について言及し,さらに通所施設における実態調査から心理・社会的側面についても論じ,受動的物理療法のリスクが指摘されています.小林論文では,寒冷療法のメカニズムおよびそのリスク管理として他覚所見・自覚症状と治療時間の調整が重要であることが述べられています.いずれも最近の発展を踏まえた論文であり,臨床家のみならず教育領域でも大変役立つものとなっています.「講座」の村瀬論文では,従来型実技試験とOSCEについての相違が論じられています.技術の習得には従来型が,基本的総合的能力の評価にはOSCEが適していると述べられています.今後の発展が期待されるところです.
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