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はじめに
日本でクリニカルリーズニングの重要性が認識されるようになってきたのは1990年代初頭,埼玉県立大学の藤縄理教授のご尽力により,南オーストラリア大学のMark A. Jones教授が来日されたのがきっかけである.彼は今でもこの分野における世界的リーダーであり,日本各地で何度も講演をされている.その後も,藤縄教授や元 新潟医療福祉大学の亀尾徹先生のご尽力などにより,その概念は多くの理学療法士に知られるようになった.
患者の問題点を見出し,仮説を立て,仮説検証をする一連の過程をクリニカルリーズニングと表現することが多いが,これはクリニカルリーズニングの一部に過ぎない.理学療法士だけでなく患者やその周囲の人も含めたすべての人の問題空間およびその改善にかかわるすべてのプロセスを指す.それらには,理学療法士の持つ知識基盤や解釈,批判的思考や臨床意思決定,垂直思考だけでなく水平思考,患者の持つ準拠枠,価値観,生き方や考え方すべての概念が含まれるものであり,それらをもとに,その患者の持つ問題を安全で効率よく解決するための方策すべてを指すものである1).したがってクリニカルリーズニングは,スポーツ領域だけでなく,すべての領域において理学療法士が習得すべき思考技術である.
スポーツ現場における理学療法では,クリニカルリーズニングは特に重要である2).介入の際に理学療法士に必要な思考過程の流れを,簡易的に表1に示す.スポーツにかかわる理学療法士に求められることは,スポーツ障害を負った選手を可及的早期にスポーツ現場に復帰させることであり失われた機能を回復させることである.さらに障害を発生させる要因を事前に把握し,障害を招く可能性のある要因を改善することでスポーツ障害を予防することである.
障害を発生させる要因は,身体機能的要因のみならず,心理的要因や社会的要因,環境的要因などさまざまであり,これらすべてを把握して選手や指導者と情報を共有し,管理していかなければならない.最終的には選手を勝利に導く力となる「勝たせる理学療法」を意識する必要がある.勝利をめざす選手にとって身体機能的側面が最も問題となるが,心理的要因や環境的要因などさまざまな要因が最終的に身体機能的要因に悪影響を及ぼし,パフォーマンスの低下につながり,実力を発揮できず敗退してしまうという最悪の結果につながる.「勝たせる理学療法」を常に意識し,理学療法士としての責任と誇りを持って現場での対応にあたることが肝要である3).
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