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はじめに
脳血管障害によって起こる運動系や感覚系などの問題やその可能性をどのように評価するか,表出される高次脳機能障害をどのように理解するか,これらは難しい課題である.専門家がある人間を評価する場合,相当の責任をもって客観的に進めていかなければならない.客観的評価を行う上で必要なことは基準や評価尺度の活用であり,用いることばにも明確な定義が存在しなければならない.それらが極めて曖昧な中枢神経系領域の中で,はたして客観的に評価することが可能なのだろうか.運動療法やADL練習は評価や動作分析の結果として提供されるものである.
脳血管障害患者の理学療法では,表出される現象から障害の本質を考えてアプローチしていくことが求められる.現象の評価の根幹は動作分析であるが,その答えの出し方も,出した答えも千差万別であり,動作分析は最も困難な評価の1つと言える.自然科学に基づく運動療法を実施するための動作分析は,科学よりもむしろ芸術の域にあるのが現状である.だから流行に弱い.原因について根拠をもって考え抜くことをせずに,イメージで捉えてしまう.その過程で最も強い影響因子が流行ものになってしまうのである.
脳血管障害患者の動作分析が科学的であることを阻害しているいくつかの要因がある.まず,脳の中で起こっている手続き,あるいは認知過程の問題に対する分析の不足である.これは,卒前教育の中で脳の機能解剖学が圧倒的に不足していることが影響していると考えられる.次に,中枢神経障害とは言えども運動器系の問題としての視点も不可欠であるが,神経生理学的アプローチを中心に展開してきた歴史が運動学的な見方を抑制してきたことも一因であると思われる.また,観察や分析に用いることばの定義の曖昧さも,その発展を阻害してきたのではないかと考える.
本稿では,以上のような問題の背景を整理した上で,具体的な場面を取り上げて,どのように脳血管障害患者に対するreasoningを進めるのか,筆者なりに提案してみたい.
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