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はじめに—疾患別リハビリテーションの嬉しくない副産物
2006年度診療報酬改定の「質の高い医療を効率的に提供するために医療機能の分化・連携を推進する視点」により,「理学療法料」は廃止され,脳血管疾患等リハビリテーション,運動器リハビリテーション,呼吸器リハビリテーションおよび心大血管疾患リハビリテーションの4つの疾患別の評価体系となった.ちなみに2006年度診療報酬改定では,当時の高齢者リハビリテーション研究会より,「長期にわたり効果が明らかでないリハビリテーションが行われている」との指摘があり,疾患ごとに算定日数上限が設定されたことや,「リハビリテーション医療の必要度の高い患者に対し重点的にリハビリテーション医療を提供する観点から,集団療法にかかる評価は廃止し,個別療法のみにかかる評価とする」となったことも記憶しておくべきである.
あれから,わずか10年で,「理学療法料」を経験していない理学療法士の数のほうが多くなった.この疾患別リハビリテーションの導入が唯一の原因とは言わないが,理学療法士が疾患別の専門性を求められるようになり,臓器や機能の各種連関をはじめ,身体全体をシステムとして捉えることが疎かになっていることは否めない.ひとを診る理学療法から,疾患を診る理学療法へ後退した,と言っても過言ではないかもしれない.
一方,わが国は世界で唯一の超高齢社会である.2006年度の診療報酬改定が議論されていた2005年にわが国の高齢化率は20.2%となり初めて20%を超えたが,2016年の高齢化率は26.7%と世界で類をみないほど急激に高齢化が進んでいる1).人口の高齢化に伴い,理学療法対象者の高齢化も進んでおり,主病名が付いたとしても複数の疾患を有し,重複した障害を有する患者を担当することも日常茶飯事である.例えば,転倒による左大腿骨頸部骨折で入院した高齢男性では,病名欄や既往歴欄に「慢性心不全」,「心房細動」,「肺炎」,「慢性腎臓病」,「貧血」,「骨粗鬆症」,「脳梗塞後遺症」,「イレウス」,「認知機能低下」の記載がある場合がある.高齢化率の上昇,疾病や障害構造の変化があるなかで,「私は脳血管疾患等リハビリテーションが専門(なので,他の疾患や障害のことはわからない)」というのは,あまりにも無責任である.
各種臓器や各種機能はそれぞれ影響を及ぼし合いながら働いている.誌面の都合上,すべての連関を網羅することはできないが,本特集では,内部障害分野の各種疾患を軸に,理学療法士としてなぜ臓器連関を意識しなければならないのか,理学療法周辺にはどのような臓器連関が考えられるのか,世界一の超高齢社会で活動する理学療法士として知っておかねばならないことについて解説いただくことにした.本稿では,総論として,理学療法と臓器連関の関係について概説する.
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