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はじめに
「理学療法士及び作業療法士法」では,理学療法士は,身体に障害のある者を対象に理学療法を行うとあるが,身体だけをみてきたわけではない.理学療法士は従来,身体に障害のある患者をこころと身体の両面からとらえ,こころの面においては,心理的対応を行ってきた.理学療法は患者のこころと身体を対象とした治療体系である.
筆者は臨床に携るなかで,脳卒中片麻痺,脊髄損傷,小脳失調症などの身体障害に対する運動療法と同時に患者への心理的対応を行ってきた1).さらに,それらの疾患に随伴する精神症状を経験した.例えば脳卒中に伴ううつ状態やせん妄,感情失禁,易怒性などである.疾患や障害と向き合うなかで,治療の基本となる患者と治療者関係,やる気などの感情,行動に興味をもって心理学の理論や手法,あるいは行動科学をベースに心理学的理学療法を名づけて取り組んできた2,3).
しかし,理学療法における心理領域は間口が広く,なかなか焦点を合わせにくい分野である.精神領域については歴史のある精神科作業療法に比してエビデンスを構築する機会も少なく,これからの分野である.振り返ってみると,今まで系統立った心理・精神領域の理学療法教育は行われていないのが現状と言えるだろう.そういった状況のなかであるが,日本理学療法士協会に設立された心理・精神理学療法部門は,世界理学療法連盟(World Confederation for Physical Therapy:WCPT)のサブグループの一員として一歩を踏み出した.
そこで,本稿ではまず心理・精神領域について述べ,次に理学療法において心理・精神的対応が求められている場合を概観する.次に,心理・精神領域の理学療法教育において基本的に必ず学ばなければならないことについて説明する.さらに心理・精神領域における理学療法を教育するためのカリキュラムについて述べる.
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