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はじめに
本稿を執筆するに当たり,理学療法士養成教育をBloom BSが提唱した教育目標の分類学(taxonomy)の視点から改めて眺めてみた.認知領域(cognitive domain),精神運動領域(psychomotor domain)そして情意領域(affected domain)のどれがより重要であるかといった比較をすること自体が陳腐なほどに,どれもが最重要領域であることに驚いてしまう.理学療法士は,運動障害の評価,治療プログラムの立案と実施さらに再評価の一連のプロセスをたどりながら問題解決をはかる.種々の判断力を必要とする認知領域の最終レベルが日々の業務のなかで実践される.また,運動技能領域が重要であることは,理学療法を医療技術として位置づけている「理学療法士及び作業療法士法」を引き合いに出すまでもない.さらに,理学療法の対象者は障害を抱える人々である.
ヒポクラテスの誓いを思い起こすまでもなく,医療に従事する者としての倫理観と,よりよい人間関係を築きあげられる基本的資質を持ち合わせることが必要である.理学療法は対象者の回復への意欲と努力に依存する比率が大きく,治療者-患者間の人間関係がその成否を決定づける.教育においてどこまで達成できるかは別にして,情意領域が理学療法教育の基本として存在することは誰も否定しない.
一般目標と到達目標を立て,それを達成させるための授業内容と方法を提示するのがいわゆるシラバス(授業計画表)である.理学療法教育の世界において,カリキュラム全体のシラバスを作成している養成校はいまだ極めて少ないが,個人レベルあるいは科目レベルではその試みがなされている.医学部を含む医療系の大学あるいは短期大学にあってこの動きは加速され,遅かれ早かれ総合的なシラバスを作らざるを得ない状況にある.
認知領域,精神運動領域そして情意領域と3領域に教育目標を分類し,それらをいかに組み合わせるかでカリキュラムや授業内容を組み立てる方法は確かに合理的である.しかし,そこで常にクリアカットに記述されないのが情意領域である.教育者の怠慢という批判もあるが,必ずしもそれだけではないと思われる.本稿では,まず情意領域の持つ特殊性や問題点を整理しその上で自分が試みている教育の工夫を述べたい.なお,参考資料としてBloomが発表した情意領域の日本語要約版からキーワードを拾ってごく簡単にまとめたものを添付した.
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