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はじめに
脳卒中は,運動障害や精神症状など重篤な後遺症を引き起こすことが多く,リハビリテーション医療において最も精力的に取り組まれてきた疾患である.脳卒中症例に対するリハビリテーションでは,身体機能や日常生活活動(activities of daily living:ADL)の自立に主眼が置かれてきた.しかし,1980年代を境にADL自立を中心とした考え方から,生活の質(quality of life:QOL)向上へと支援目標は転換し,心理的側面をも含めた支援が求められるようになった.そして今日では,急性期・回復期の入院リハビリテーションはもちろん,地域を舞台にした慢性期以降の生活期の介入が重視されるようになり,障害を抱えながら生活者として日々の生活を送る脳卒中症例の心理的側面に対する支援ニーズは,ますます高まりをみせている.
脳卒中症例の心理的側面については,精神的健康度,特に抑うつ状態に関する研究が数多く取り組まれてきた.抑うつ状態は,脳卒中において高い発現率を示すことが指摘され,脳の障害に起因するpoststroke depression(以下,PTD)1)や,障害受容2)との関連から説明されてきた.しかし近年では,障害に起因したストレスによる心理的反応として抑うつ状態を呈すると考えられており,その現象を説明する理論としてLazarusら3)の「ストレス認知理論」が挙げられる.本理論に基づき脳卒中症例の心理的プロセスを説明すると,障害は個人の認知的評価を経てストレスとなり,そのストレス反応として抑うつ状態に陥ること.そして,この過程においてストレスを緩衝する「ストレスコーピング」がストレス反応の個人差を生み出すものとして,心理的プロセスを明確に整理することが可能である.本理論は,今日のあらゆる分野のストレスマネジメントに応用されており4),対象者の理解や理学療法の実践に広く普及していくことが期待される.
本稿では,脳卒中症例に対する心理的側面を考慮した理学療法を展開するうえで有益な理論であるストレスコーピングについて,基本的概念と先行研究の動向を紹介するとともに,理学療法への応用可能性について解説する.
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