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Ⅰ.初めに
歩くというきわめて基本的な動作能力が奪われたとき,人はいったい何を感じ何を思うのであろうか.日々多くの障害者の訓練に当たっていてもその心境に到達するのは,いささか困難のように思える.ただ,歩けるようになったときの患者の喜びようを見ると,それがいかにたいせつなことであるのかいつも新しい驚きで胸が熱くなる.理学療法士ほど,歩行というものに直接かかわる職業は他に無いであろう.
歩行の異常を矯正あるいは回復させるためには,まず的確に歩行を分析して,異常の原因を明らかにしなくてはならない.臨床現場ではほとんどの場合,ストップウォッチを片手に観察と触診と模倣によることになるが,これが実習学生や新人の理学療法士が泣かされるいわゆる‘歩行分析’である.
理学療法士が行なう歩行分析は,対象者が正常歩行からどのようにそしてどれだけ逸脱しているかを診るという目的でなされる.それゆえ,異常を診る前にその基準となる正常歩行を熟知しなければならないということになる.
人の歩行について,現在の知識の基礎を成す研究は19世紀に始まった.写真技術の発達による動作解析の進歩や各種計測器機の発達により正常歩行に関する多くの研究が為されてきた.その結果,理学療法士が臨床で必要とする正常歩行の知識と解釈はすでに出尽くした感がある.そしてそれらは多くの成書にまとめられている.本誌の前身である『理学療法と作業療法』第20巻(1986)でも講座に歩行が取り上げられ,飯田1)により正常歩行の分析の歴史,方法,歩行時の関節のモーメント,床反力,筋電図など,運動学および運動力学すべてが詳細に網羅されている.ぜひとも一読を勧める.
今回は入門講座ということなので,新人の理学療法士が臨床の場で歩行分析をする上で役にたつということを念頭にまとめた.
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