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1.初めに
身体の機能障害(impairment)のために起居・移動動作が制限されることは,その人の生活を制限するのみではなく,生存をも危うくする虞(おそ)れを孕(はら)んでいる.
社会的存在としての人間にとっては,ある程度の生活圏を確保し,家族や地域社会における仲間同士の交流を保ち,お互いに役割や存在を認め合いながら生きていくことが,孤独から脱却するために必須であり,そのためには,歩いて移動できなければならなかった.
人が歩くことに対していかに強い執着をもっているかは,発表されている調査結果を見るまでもなくよく理解できるが,その欲求の強さにたじたじとさせられ悩んだ経験は理学療法士だったら誰でももっていることと思う.
リハビリテーション医学の進歩に伴い,リハビリテーション工学の協力を得て義肢,装具,杖,歩行器などの歩行補助機器が開発され,機能障害はもちながらもある程度歩行が可能となる人が生まれてきた.そしてまた,歩行に代わる移動方法として車いすが広く活用されるようになり,身体障害者のリハビリテーションに革命的な広がりがみられるようになってきた.
しかしながら,人間の二足歩行の巧妙さは平地,敷居,溝はもとより,坂道,凸凹道の歩行,段の昇降や走行,ジャンプ,スキップまでもやってのけるが,補助機器を用いての移動はおのずから限界があると同時に,環境による制約を回避することができない.
補助機器を使用しない歩行でも,たとえ軽度の障害であっても,物理的環境いかんによってその人の移動能力は大きく左右される.すなわち,物理的環境がその人のdisabilityやhandicapを一義的に規定してしまっていると言っても過言ではないケースが少なくない.
したがって,住宅改造を含む物理的生活環境は身体障害者のリハビリテーションの要となる重要な要素となっている.
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