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理学療法白書(日本理学療法協会編集)によると,循環器疾患に対する理学療法処方件数はここ10年間で飛躍的に増加している.この背景には,循環器疾患の罹患率が急増していることに加えて,救急医療システムの充実と初期治療の著しい進歩によって,循環器疾患に対する理学療法が安全かつ早期に介入できるようになったことが大きく関与している.また,昨年,診療報酬算定のための施設基準が緩和されたが,算定可能な対象疾患の拡大なども予想され,循環器疾患に対する理学療法処方数は今後さらに増加していくものと思われる.このことから,循環器理学療法を専門とする理学療法士は,循環器疾患に対する診断と治療技術の進歩を的確に捉える能力,さらには理学療法による介入効果を科学的根拠に基づいて検証していく能力を身に付けておかなければならない.
このような中で,三輪書店から出版されている理学療法Mookシリーズに「循環器疾患のリハビリテーション」が新たに加わった.本書はすでに発刊されている他のシリーズの内容からも各専門分野のオーソリティが編集に当たられていることは疑う余地はないが,今回,日本の循環器理学療法を20年以上にも及んでリードされてきた山田純生教授が本書の編集を担当されたことで,循環器理学療法に携わる者にとって,今,いやこれから何処に焦点を当てて臨床ならびに研究を進めていくべきかを明確に指し示してくれる貴重な内容となっている.まず,病理学の立場から臓器障害をより深く考察する視点を提供してくれている.さらに,虚血性心疾患の病態と治療や心臓外科術後の病態管理について,実際に心臓リハビリテーションを担当されている専門医による詳細な解説がなされ,それに応じて理学療法の展開が具体的に示されている.とくに,理学療法介入による効果判定の指標について,機能障害,能力障害さらには心理社会的側面へと障害モデルに従って示されている点が他にない本書の特徴といえる.また,今後,高齢化が進み,重症患者が増加することを踏まえて,慢性心不全に対する病態管理と運動療法の位置づけが体系的に解説されている.さらに,虚血性心疾患の性差に視点を置いて女性の特徴がまとめられている点は,今後の循環器理学療法における課題を明確に提示していると思われる.
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