- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
かつて筆者が新人だったころ,片麻痺の方からよく尋ねられたことは「この手は動くようになりますか?」「また散歩に行けるようになりますか?」という機能回復の予後に関するものでした.そのころ(30数年以上前,1980年代)の常識は,脳機能そのものは回復せず,代償的な過程によってADLの向上が獲得されるというものでした.現在の脳機能回復の理論的発展と実践への展開を,そのころ誰が予想できたでしょうか.
さて,今特集は「脳機能回復と理学療法」です.かつての常識が打ち破られ,新たな可能性,パラダイムシフトを読者は味わうことができるでしょう.この領域の臨床的研究の第一人者である原先生には「脳機能回復理論と治療選択」において,「固定概念であった“装具を使ってでも歩ければいい”ではなく,“補装具を使用しない歩行の獲得”を目標にするなど ,今までより高い水準を目標とする時期がきているのではないか」という重要な提案をいただきました.廣川先生には「脳機能回復と促通反復療法」について,その理論的背景と実践結果についてご紹介していただき,「患者が意図した運動を反復して誤りなし学習を強化する点,運動量だけでなく運動の質を重視する点」が肝要であることを解説していただきました.万治先生には「脳機能回復とトップダウンアプローチ」として,経頭蓋磁気刺激(rTMSあるいはcTBS)およびtDCSの理論的背景と適応,症例での運動学的効果の検証,展望,限界について解説していただき,特に回復期片麻痺上肢機能の改善についての運動療法との併用を考慮した自験例を紹介していただきました.村山先生にはCIMTについての適応と効果に関する先行研究の概観と理学療法場面での適用についての留意点を述べていただき,最近の方法として「拘束への抵抗感やストレスの軽減を目的として,麻痺側への意識化が図られていれば必ずしも拘束は必要でないというmodified CMIT」についても言及していただきました.中野先生には「脳機能回復と認知神経的アプローチ」に関して,脳内の運動ネットワークの変化,半球間抑制の不均衡など重要な理論を平易に解説していただき,運動機能回復のための手続きとして体性感覚フィードバック,運動先行型活動,運動発現のための皮質脊髄経由の神経活動の重要性について指摘されました.いずれも先端的な研究成果をもとに述べられていてこの領域の必読論文といえるでしょう.このほか,本号では諸橋先生の入門講座「臨床に活かす理学療法研究法」において「症例報告」が解説され,物語的に「研究を進める理学療法士A君の事例」が提示されています.これが大変興味深く「あるある」とうなずく読者も多いと思います.紙幅の都合ですべての記事についてご紹介できないのが残念です.
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.