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はじめに
わが国は未曾有の「超高齢社会」を迎えようとしている.国立社会保障・人口問題研究所の報告によると,わが国の65歳以上の高齢者の割合は, 2005年の時点で全人口の20.2%に達しており,さらに2025年には30%を超え,2050年以降は40%をも超えるという予測を立てている.高齢化の進展に伴い,脳卒中や骨折,認知症などの有病者が増加することが予想され,これらの疾病による治療上の安静臥床は筋力低下や関節拘縮を招き,歩行や起き上がり,寝返りさえも困難となり,結果として寝たきり状態になることも多い.そして,寝たきりの状態になれば,褥瘡発生のリスクが高まる.ひとたび褥瘡ができると,褥瘡の治療や処置のために入院期間が延長され,処置費用・入院費用の増大につながり,社会経済的にも大きな不利益が生じる.また,決められた時間ごとの体位変換にも多くの人員が必要であり,その管理にも労力と時間を費やしてしまう.もちろん,リハビリテーションを行う上でも大きな阻害因子になる.そして何よりも,患者本人の身体的・精神的苦痛が最も深刻である.現在,わが国の寝たきり率は欧米諸国よりも高く,高齢化の進展により今後も褥瘡有症者の増加が危惧される.
このような状況の中,厚生労働省(以下,厚労省)は2002年4月の診療報酬改定において,入院基本料・特定入院料の算定にあたり「褥瘡対策につき十分な体制が整備されていること」という基準を設けた.次いで,褥瘡の発生予防,発症後早期からの適切な処置を含めた対策が必要であるという観点から,同年10月には「褥瘡対策未実施減算」が新設された.これは病院内に褥瘡対策チームを設置し,入院患者に対して評価を行い,褥瘡発生リスクのある患者には適切な対策をとらなければ,入院料の一部を減算するというものである.褥瘡に関する診療計画は,これまでも療養病棟などの一部において高齢者の入院診療計画書の中にその内容が盛り込まれていた.しかし,褥瘡の発生リスクのある患者は維持期に限らず,急性期,回復期にも存在することから,病棟で区別するのではなく,すべての医療機関の入院患者を対象とした褥瘡管理体制の整備が義務付けられた.
こうした背景を踏まえ,本稿では褥瘡管理体制の中心となる褥瘡対策委員会(以下,委員会)の設置意義と活動紹介,ならびに委員会における理学療法士の役割について,筆者らの3年間の経験に基づいて報告する.
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