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はじめに
プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,APTT)などの凝固検査は,止血凝固異常の原因の調査や,ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬の治療効果判定を行うための有用な検査である.凝固検査は通常,採血後に一定量のクエン酸ナトリウムを添加し,抗凝固化された血液を遠心分離して得られた血漿に,試薬とカルシウムを添加して血液凝固する時間を測定している.この検査に影響を与える主要因は,特に採血手技や凝固検体の取り扱いなど人為的・技術的なものが多い(表)1).例えば,採血量過不足,採血後の不十分な転倒混和,ヘパリンなどの薬液混入(ライン採血など)は採血に不慣れな医療従事者に認められがちなミスである.
このように採血手技を困難なものにしている一つの原因としては,抗凝固剤として用いられるクエン酸ナトリウムで,コンタミネーションもなく正しく採取された検体が血液と適正比(正しい採血量)で素早く混合されなければならないからである.用いられているクエン酸ナトリウムと血液との混合比の変化により,血液中のキレートされるカルシウム濃度(%),血液のpH値,凝固因子の希釈率などが凝固検査値に影響するためと考えられる.しかしながら,高度の貧血患者や多血症患者では適正混合比にしても,ヘマトクリット(hematocrit,Ht)により血液中に含まれる血漿量が変動するために,採血量過不足時と同様に血漿中クエン酸濃度の変化により測定値に影響が認められる.通常,抗凝固剤に対する全血量が過剰となる場合には顕著な影響は認めにくいが,血液量が低下した場合には凝固時間が延長する2,3).このことは,貧血・多血症患者においても同様の傾向が認められる.つまり貧血患者では,血液に含まれる血漿量が多くなるために凝固時間に対する影響は少ないが,特に多血症患者では採血量不足と同じように含まれる血漿量が少なくなるので,通常の混合比では凝固時間が延長しやすいことと一致する.
本稿では,適切な凝固検査を行ううえではHtにも留意すべきでHt補正も重要であることを,高度多血症であったEisenmenger症候群症例を具体例にして述べる.
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