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あとがき
伊藤 喜久
pp.422
発行日 2011年4月15日
Published Date 2011/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102609
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平均寿命の増加と生活環境の変化も相挨って近年手術,妊娠などに合併して血栓塞栓症が増加してきており,プロテインS異常症,欠損症が日本人では病因として少なからぬ比重を占めることが,遺伝子解析,疫学調査などから明らかにされています.これは日本発の独そう的な研究の成果によるところも大きく,永年にわたり病因・病態の追及,検査開発に取り組まれた諸先生方の成果が随所に濃縮された読者必読の主題です.
全く門外漢のつぶやきですが,凝固血栓線溶システムで面白いと思うのは,一連のカスケードの下流で産生されたトロンビンが血栓形成に働くと同時に,血管内皮上のトロンボモジュリンと結合することで,今度は上流に向けて抗凝固作用を発揮し,線溶も含め幾重にも促進抑制制御のネットワークの形成が伺えます.局所で瞬時に起きている生理・病態変化を見分け,システム全体で振り子のようにしなやかに一定の幅におさめ制御に働く.この中で先天性の欠損,機能異常は,いわばシステムに最初から大穴があいた状態であり,通常,通常以下の環境因子の影響にでも対応能力が低下して病態異常を呈してきます.しかし,このような状態でもほかのシステムが代償的に働き,バランスを維持する予備能力を維持されている機能は驚異としか言いようがありません.促進制御に対する別の促進,制御作用が無限に連なり健常状態に至る過程は,あたかもイェルネの免疫の自己・非自己循環理論を想起させるものがあります.プロテインSの学問体系がさらにほかの因子との相互作用へと拡散して,今後“健常状態”に向かって新たな因子の発見へと続く道筋が見えてきました.
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