味わいエッセー 出会い
落語
桂 前治
1
,
中島 英雄
1
Hideo NAKAJIMA
1
1中央群馬脳神経外科病院
pp.158
発行日 1990年2月1日
Published Date 1990/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900576
- 有料閲覧
- 文献概要
私が落語と出会ったのは小学校3年生の時で,詳細は省略させていただきますが,とにかく私の家で当時二ツ目の“桂伸治”師匠が落語勉強会を始めたのであります.私はただひたすら笑いました(エッ?小学校3年生で落語が解ったのかって?そうあの方の落語は「人情噺」はないし「廓噺」もない,ただ単純な熊さん,八っつあんの話だけでしたから大変分かり易いものでした).世の中にこんな面白いものがあったのだろうかと抱腹絶倒.たちまち傾倒して行きましたねェ.例のローレンツの“imprinting”というやつでしょうか.未だ脳細胞が150億個全部揃っていて神経線維も四方八方にnet-workを形成している最中でしたから,師匠の噺や仕草を片端から覚えてしまった(今この頃の才能があればなぁー).
次には人前で演りたくなってしまって……演りましたねェ.クラスのお誕生日会なるもので,友達はみんなお歌やお遊戯をしているのに,私独り「エーお笑いを一席」とやっていた.受けましたねェ.友達はダメですよ程度が低いから分からない.参観の父兄,先生方に受けちゃった.そりゃそうだわね,小学生が「エー吉原というところは花魁てえものがおりまして……」なんて演っているんだもの.でも当人は勘違いしましてネ.「もしかして僕は落語の天才じゃないかしら」なんて,早速師匠に弟子入りを申し込んだ.「師匠!僕噺家になりたいんです」.
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.