連載 ほんとの出会い・15
落語が誘う長屋の世界
岡田 真紀
pp.495
発行日 2007年6月15日
Published Date 2007/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100829
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初めて落語を生で聴いた。ホールの落語なのでお囃子は生ではなくテープだったが,それでも,三味線や太鼓の賑やかな音が聞こえてくると心が浮き立つ。三遊亭楽太郎さんが「長屋の花見」を語りだす。すると,不思議,落語初心者の私の目に,すっと藤沢周平さんでおなじみの江戸の長屋の風景が浮かんできた。横丁の熊さん,八つぁんが生き生きと動きだししゃべりだす。活字から脳裏に描き出されていた静かな世界が,噺家の身振り手振り,それに話し言葉が加わっただけでこれほど立体的になるのかと新鮮な落語初体験だった。
ゲストの風間杜夫さんが「居残り佐平次」を噺した。品川遊郭でお金もないのに遊ぼうという話で,佐平次はお得意の口八丁で店の番頭をごまかし無銭飲食をする。その上,自分は重罪人だ,店の前で捕り物を演じられたくなければ逃走費用を出せ,と主人を脅して大金を巻き上げ着物までもらって帰る。あきれたことに,使用人への捨て台詞が「お前の主人はばかだ」。
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