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■はじめに
昨今,「心理的安全性」という言葉が注目されているが,2010年頃,筆者は手術安全や心臓手術チームの取り組みに関する論文を渉猟していた際,Harvard Business Schoolの組織行動学者であるAmy C. Edmondson教授(以下,エドモンドソン)が2003年に発表した論文1)に遭遇し,「Psychological Safety(心理的安全性)」という言葉を知った.この論文には病院・手術を対象としたチームに関する研究内容が記載されていたが,引用文献にはエドモンドソンの研究の嚆矢と言える,1999年の“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”2)があった.さらにその後のエドモンドソンの著書『チームが機能するとはどういうことか』3)(原著2012年,邦訳2014年)には,Psychological Safetyの概念は,組織改革に関するマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授(本書3)の序文を執筆)とウォレン・ベニス教授の初期の研究4)に端を発することが紹介されていた.すなわち,彼らは半世紀以上も前の1965年に,組織においては心理的安全性を生み出して,従業員に変化を確信させたり,実感させたりする必要性を論じていたのであった.
なお,上記のエドモンドソンの著書3)の第3章(p.117)では,「変革プロジェクトをフレーミングする」モデルとして,低侵襲心臓手術(MICS)の導入を試みた16施設を対象にリサーチを実施していた.このうちの4施設(大学病院2,市中病院2)を取り上げた成果「四つのチーム — 二つの結果」は,筆者の専門領域でもあったので,心理的安全性について論旨が明確に展開されており外科医・管理者として理解が深まった.心理的安全性の定義は,「それは対人関係の信頼と,人々が自分らしくいることへの相互尊重を特徴とするチーム風土を表している」とされ,「そのチーム内では,対人関係上のリスクを取ったとしても,安心できるという共通の信念」とも記載されていた.ただし,どのような発言をしても罰せられないというルールがあるのではなく,発言をしても罰せられない雰囲気や暗黙の了解が集団として規範となっていることのようである.つまり,心理的安全性を確保するには,組織を構成する個人個人の資質ではなく,こうした組織文化を醸成し定着していることが不可欠だというのである.
後述するように筆者は稀な経歴の「アウトサイダー」管理者であるが,本稿では私的な経験を基に,筆者が考える心理的安全性について考察する.
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