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■はじめに
本特集では,心理的安全性についての多くの優れた論考が併載されるので,本稿では筆者が考える心理的安全性実装のために必要ないくつかの問題について述べてみたい.筆者が心理的安全性という概念に大きな期待をかけた理由について簡単に表1に示した.
医療安全の観点からは,二つの重要なポイントがある.一つはエラーや懸念事項があったときに,それを躊躇なく報告することができ,エラーや失敗を修正できること.もう一つは困難な状況に陥ったときに,その状況から脱却するためにさまざまなアイデアを自由に議論できることである.この二つを実現するために心理的安全性という考え方は非常に重要であり,同時に心理的安全性はチーム医療のパフォーマンスをより高度にするものであるといえる.
心理的安全性はエイミー・エドモンドソン1)によって一躍有名となった概念で,さらにGoogleでの研究でビジネス界でも大きな話題となった.
現在の日本では安全文化という言葉で,報告する文化について語られることが多い.航空業界など他業種の研究者との学会や研究会での情報交換において,医療界の大量のインシデントレポート報告数については群を抜くものがあり驚嘆の声が上がる.医療現場の業務特性とに差があることを踏まえても,看護師を中心とする真面目かつ誠実な報告の意識は驚嘆すべきものがある.インシデントレポート報告を推奨し,そこから院内の情報を得て適切な対応をとっていくことは,現在では大多数の医療機関において当然のこととして実践されている.これは医療における安全文化醸成の努力の一つの成果であり,心理的安全性がうまく達成された一例と考えることができるだろう.
では医療現場における心理的安全性の実装は十分なものであろうか.決してそうではない.医療現場において患者の命を救い不必要な傷害を回避するためには,さらなる心理的安全性が必要とされる局面があることは事実である.
本稿では,より前向きな医療安全の観点から病院における心理的安全性の実装を考えた場合,どのようなことを考慮していけば良いのかを,エドモンドソンの提起を基礎に議論する.
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