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講座
運動学習・12 運動学習について思うこと
Motor Learning. 12: Thoughts on Motor Learning
宮前 珠子
1
Tamako MIYAMAE
1
1国立身体障害者リハビリテーションセンター
1National Rehabilitation Center for the Disabled.
pp.809-810
発行日 1988年12月15日
Published Date 1988/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518104159
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- Abstract 文献概要
今から15ないし20年前,片麻痺の運動回復は,残った脳細胞による新たなる学習にほかならないのだと気付いたときから,そして患者に上肢の基本動作練習をさせるとき,患者が好ましくない運動パターンで行うのを,即座に修正すべきなのか,しばらくなすがままにまかせてもよいのかわからず迷っていたときから,そして,子どもにまったくしつけをせず,放任したら良い子に育つのではないかと考え,実行しているという人の話を聞いて疑問を感じたときなど,学習ないし運動学習が行われると,中枢神経系内部にどのような変化が起こるのか,中枢神経系がどのように変化したとき,学習が成立したということになるのか,ということは,私の最大の関心事の一つでした.
これに最初の回答を与えてくれたのは,engramという概念です.あることがらを行うために必要な神経回路を繰り返し繰り返し使うことによってengramが形成されること.繰り返しある神経回路を使うことにより,その回路の中のシナプスはノブが肥大したり多くの枝分かれを作って,伝達物質の流れがよくなり,ついには反響回路を形成して,われわれがそのことがらをしていないときにもその回路はつねに活動しており,その結果スイッチをいれるだけで,即座に以前覚えた運動を行えるという状態になるということ.例えば,何年も自転車に乗っていなくても,すぐに乗れる,ということです(Eccles,1973).ただし,この反響回路説は最近は否定されているようで,少なくとも長期記憶は反響回路のようなダイナミックなものによるのではなく,物理的なplasticな変化によると考えられているようです2).
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