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Ⅰ.初めに
本特集は感覚統合療法(sensory integrative therapy)の有効性と限界をテーマとしているが,あらかじめことわっておきたいことは,我が国での実践はまだ日が浅く,それ故(ゆえ)本療法の効果に関する実験的研究もまだ非常に不充分な現状であり,“限界”を規定するまでに至らず,考察の域を出ないということである.これにはいくつかの理由が考えられる.まず第一に感覚統合療法の主要な対象である学習障害児(または微細脳障害(MBD)児)が我が国ではほとんど医学や特殊教育の対象として認識されていないこと,第二には効果の研究をするだけの本格的な感覚統合療法の実践者が充分育っていないことが挙げられる.近年,感覚統合(療法)に対する関心が非常に強くなってきているが,名前のみが一人歩きし正式な方法で実践している人が非常に少ないというのも現状と思われる.
本療法の背景となっているいくつかの原理は,医療における手術や薬物治療のように病理学を基盤としたものとは異なり,リハビリテーションの基本哲学に基づいて開発されたものである.すなわち,疾患の原因を除去するという概念よりもむしろ疾病からくる障害(impairment,disabilityおよびhandicap)を最小限に食い止め,その障害をもちながらも一個人として最大限に残存能力を発揮し人生を送れるよう“援助”するという立場をとっている.リハビリテーションの考えかたは,疾病の原因を細胞レベルまで掘り下げる方向,いわゆるリダクショニズム的考えかたよりも,むしろ部分を全体へ統合あるいは抱括しようとする理念が中心となっている.したがって,感覚統合療法が人間の学習や行動という脳全体の機能とさまざまな環境因子とのかかわりを対象とした方法であることを考えると,薬物の効用研究に対するような実験は非常に困難と言わざるをえないし,また倫理的にも難しいと言える.しかし,本療法が学習や行動の異常に対してどのような変化を生じさせることができるか,については当然研究が進められてきており,今後ますます深められていくと思われる.
本稿では本特集の他の著者の疾患別有効性の検討内容をより理解できるよう,まず本療法の発展過程に焦点を当て,現在どのようなところまできているのか,現在の問題点は何かそして今後の課題は何かについて総論的に記述する.
感覚統合の理論と実際の詳細については,Ayresの成書1,2)および「感覚統合研究」3,4)(日本感覚統合障害研究会編)を参照されたい.
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