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はじめに
古い時代から睡眠障害は人類を悩ませてきた重要な問題である。しかし,近年になってさらにその重要性が増したといえる。一般の健康な人たちでも,日常生活におけるさまざまな心理的ストレスや生活環境の大きな変化に伴う精神緊張のために不眠が生じ,不眠が慢性的に経過すると心身の不調が増強する。さらにさまざまな精神障害や身体疾患を患っている人たちには,不眠症状の合併が高頻度にみられることはよく知られている。しかし,睡眠の生理学的機序や睡眠障害についての科学的研究が行われるようになったのは1900年代に入ってからのことであり,睡眠障害についての医学研究は脳科学研究として1960年以後に急速に進歩したといえる。
睡眠障害は精神疾患には必発の症状ともいえる。最近の疫学的研究,臨床研究から精神疾患は慢性不眠の原因となっており,同時に日中の過剰な眠気や倦怠感がみられ,睡眠・覚醒リズムの障害を伴う場合が多い。すなわち脳の機能が障害された状態とみなされる精神神経疾患には,睡眠障害が必然的にみられる。さらに精神疾患のない場合にも,不眠症が長期化するとうつ病や不安症状を引き起こすという報告が多くみられる。この状態は社会的,心理的要因が睡眠に影響を及ぼし,その結果として不眠や睡眠不足をもたらし,脳と精神の機能に大きな影響を与え,精神疾患や神経疾患の発症や病像に影響すると考えられる。
精神医学と睡眠医学の接点は,より良い睡眠を介して精神の健康を維持・増進し,精神疾患を予防すること,さらに睡眠を手がかりとして精神疾患の早期診断・治療を行うこと,内因性睡眠障害,睡眠覚醒リズム障害の本態を解明し,その治療法を開発することなどである。このような新しい睡眠医学と精神医学を融合した領域を「睡眠精神医学」として取り上げることは,21世紀精神医学の方向と考えられる。
これまで本誌では,数多く睡眠障害について取り上げられてきたが,今回特集として再び「睡眠」が取り上げられることになった。さまざまな精神科関連疾患のなかで,うつ病,統合失調症,リエゾン精神医学,身体疾患プライマリーケアなどの領域において睡眠精神医学との関連について検討した。うつ病,統合失調症と睡眠障害についての関連性については古くから取り上げられているが,今後の動向として病態解明,治療,予防的側面から再考されるべき課題として提言された。さらに,リエゾン精神医学,身体疾患と睡眠障害については精神科医が身体科のなかで果たすべき役割が認識され,プライマリーケア医学において睡眠医学教育の重要性が強調される。本稿では,わが国における睡眠医学,医療の現状と睡眠障害診断分類について紹介する。
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