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Ⅰ.初めに:学習障害とは
学習障害に対する医学的,教育的興味の興隆は,米国においてはすでに1960年代後半よりみられるが,我が国においては,その概念の混乱もあって未だ啓蒙期にあると言ってよい.特に我が国では教育の文化的特徴もあり,これらの子どもたちの多くが情緒的,社会的行動の不適応症状を主徴候としやすく,我々医療分野で働く人間の前になかなか姿を現しにくい,との指摘もある.
米国三者委員会(National Society for Crippled Children and Adult,National Institute of Neurological Disease and Blindness,the Division of Chronic Disease of the US Public Health Service)提案による微細脳障害症候群(minimal brain dysfunction;MBD)の定義の中から,その障害の特徴を列記してみると,以下のようになる.
(1)一般的知能はほぼ平均,あるいはそれ以上である.
(2)中枢神経のわずかな機能偏倚がみられる.
(3)軽度から重度に至る種々な程度の学習障害や行動障害を呈する.
(4)障害は,認知,概念形成,言語,記憶,注意力や衝動のコントロール,運動機能などの諸機能の障害のさまざまな組み合わせから成る.
(5)これらの異常は,遺伝的変異,生化学的不規則性,周生期脳障害,中枢神経系の発達,成熟に重要な生後数年間の疾病罹患や外傷などに起因する.
上村1)は学習障害をもたらす脳障害の程度は,大部分がMBDであるが,てんかん,頭部外傷,脳血管障害,内分泌疾患,染色体異常など,限局されてはいるものの微細とは言えない脳機能障害を原因とした学習障害も存在すると指摘し,表1に示すごとく学習障害を脳障害のうえで連続性をもつ発達障害児の中に位置づけて考えることができるとしている.
一方Ayres2)は,一連の因子分析的研究の中で学習障害児に特徴的な五つの症候群(前庭性・両側統合障害,運動企画障害,触覚防衛,聴覚・言語障害,形態および空間知覚障害)を明らかにし,おのおのの障害特性とその神経生理学的メカニズムについて洞察を深めている.
以上のことより,学習障害とは特定の病因を基盤とする一定の疾病概念ではなく,種々の病態像から成る一つの症候群であること,その症状は,運動,認知,言語,情動面など多様な脳機能の側面に及ぶこと,脳機能の発達的,神経生物学的関連から,これらの症状はさらにいくつかの症候群に分類されうること,などが言えよう.
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