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はじめに
片麻痺は,その起因疾患が脳血管障害であるために,たんに片側に麻痺があるというだけでは解決できない複雑な問題を含んでいることはいうまでもない。
その中で歩行に関連のある主な問題をあげてみると,1)麻痺の型が痙性であること(ごく初期には弛緩性だが),2)緊張性頸反射・緊張性迷路反射・緊張性腰反射などの原始的姿勢反射に支配され,正常な姿勢反射が阻害されていること(Brunnstrom1),Bobathによる),3)動作が共同運動(Synergy)の形で現われることが多いこと(Brunnstrom,Bobathによる),4)知覚障害を伴うことが多いこと,5)失認・失行症,アテトーゼ,失調症を伴うこともあり,5)その他心理的・情緒的・精神的な面も間接的には歩行に影響を与える要素としてあげられる。歩行練習の指導にあたってはこれらの問題をぜひとも考慮しなければならない。
片麻痺障害者がどの程度歩行が可能となるかについては,日本においても今までに多くの研究データが出されているが,彼らがこのような複雑な問題をかかえているにもかかわらず,リハビリテーション施設で治療を受けた障害者の80-90%は,何らかの形で歩行が可能となったというのが大かたの意見のように見受けられる。
しかし,この80-90%の歩行可能者個々の歩行能力について考えてみた場合に,日本の現状においては,障害者各個人が必ずしも十分な能力を獲得していないのではないか,と私は危惧している。というのは,正しい注意深い理学療法によっては防ぎえたかもしれない反張膝や強度の関節拘縮のために,歩行能力(歩行速度,安定性,歩行の耐容力など)が制限されている症例が,まだまだ後を絶たない現状だからである。
脳の損傷部位と症状との関係からみた歩行能力の予後判定については,平方4)によって紹介されている例があり,参考までにここにあげておく。
a.橋延髄小脳型
major ataxiaのあるものは歩行能力が得られない。minor ataxiaのみのものは膝のこわばりと股外転位で,足底を地にたたきつけるような歩行となり,耐容力はあるが歩行速度はおそい。
b.視床基底核症候群
視床型では,肘を後に引き,足を前外方に出した特有の歩き方をするが,多くのこの群の患者はほとんど正常の歩き方で,ややぎこちなさが見られる程度。
c.強剛型
耐容力はあるが歩行速度のおそい股外転の強い歩行。
d.即時Wernicke-Mann型
内反足がしばしば歩行をさまたげるが,多くは尖足歩行の傾向のある,かなり正常に近い歩行まで同復する。
e.遅延Wernicke-Mann型
歩行の回復は比較的良い。
f.低緊張型
足を床から離さず歩く傾向が強い。杖必要。
g.遷延無緊張型
長期の治療の後,長下肢装具を使って杖使用でひきずり歩行のような歩行となり,耐容力・速度ともに悪い。
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