Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
運動発達の研究は発達科学(developmental sciences)の分野に属している.
科学は定義された事項と法則から成り立ち,それは事象の説明と予測を可能にする.自然科学では,事象は同時的であり,反復して観察することが可能であり,分析的研究方法と還元主義的説明がよく用いられている.このような立場で物理学,生理学などは体系化されている.
これに対して,発達科学は時間経過につれて起こる変化そのものを対象としている.言いかえると,時間の関数としての変化そのものを問題とする.代表的なものに天文学,地質学,考古学,生物学,歴史学があり,種々の社会科学もこれに属している.この分野では,歴史的アプローチが研究手法として用いられ,変化の記述はできても,その原因は明らかにされないこともある.事象の説明や予測が不可能なのである.進化論のように事象を説明しても,将来への予測を欠く理論もある.こうしてみると,発達科学は古典的な自然然学とは異なり,科学としては未完成である.最近は科学の歴史研究が盛んになり,科学の理論そのものが変化することも明らかにされた.同時に,科学がどのような前提から出発しているのか,科学哲学やmeta-scienceも重視されている.
理論は完成した場合には一つの構造を持った全体,体系となるが,それ自体が歴史的に見ると大きく変化していく.そこで発達科学を見ると,現在のところ何ら統一された理論はないことに気がつく.
一方,運動という言葉は複数の意味を持つ.運動(movement)を空間での質点位置の時間的変化として扱う運動学(kinematic),その力関係を扱う運動力学(kinetic)は力学である.また筋力や運動協調性もある程度は生体力学と生理学で処理できる.課題遂行としての動作(motion)を取り上げると,運動技能や運動学習など発達科学のテーマになろう.さらに行為(act)となれば,社会科学が必要だろう(表1).行為は力学的な運動に還元して説明できるものではない.ただし,それなくしては成り立たない.そこで運動の概念に階層性が導入される.
発達を問題にする場合,運動のどのレベルを取り上げればよいのだろうか.たとえ運動発達障害に限定しても,運動障害によって起こる経験不足は心理社会的発達を阻害する,それが逆に運動発達を停滞させる.時間経過を考慮した場合,階層間の相互作用が問題になるからである(図1).
Copyright © 1985, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.