Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
小児の運動発達は中枢神経系の成熟に関係し,かなり順序性がみられる.すなわち,頭部から尾部cephalo-caudalへの方向と近位から遠位proximo-distalへの方向に従って発達するということが一般にいわれてきている.これは頸がすわり,おすわりができ,つかまり立ちができてから自立歩行が可能になるし,また,肩や腕,前腕,手掌,手指の順に随意運動が可能になっていくということを意味している.
運動発達をこのようにとらえるとあたかも神経系の成熟のみによって左右され,発達については解明されつくされていると考えられがちである.ところが,最近では異なる文化圏や地域に住む乳幼児の運動発達を比較すると発達の速度に違いがみられる知見も報告1~5)され,養育環境を無視して運動発達を論じることはできないことが明らかにされつつある.新生児期にみられる種々の反射運動の消長にさえ養育行動(新生児への働きかけ方)のあり方が関与していることをBowerは報告している6).養育環境は運動発達以外に言語領域の発達にも密接に関係し,上田(礼)は米国の乳幼児の発達基準で日本の乳幼児の言語発達を評価することはできないことをみいだしている7).
便宜的に運動発達を粗大運動gross motorと微細運動fine motorに分け,それらがどのように発達していくのかについて今回と次回の2回にわたって述べていきたい.ここで前提となるのは人間を生物学的存在であると同時に社会的存在であるとしてとらえる視点である.いいかえれば,出生直後から乳児はかれらなりに物を見たり,聞いたり,感じたりして行動しているのであり,運動発達もこのような乳児と環境との相互関係の中で理解される必要がある.以下,粗大運動の発達項目,個人差,運動発達の予測性,運動発達に影響する諸因子について述べる.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.