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Ⅰ.はじめに
リハビリテーションゴールの一つに職業的復帰という課題があるならば,チームの一員として,作業療法士は職業に関する知識・情報をできるだけ具体的に体験してみる必要があるだろう.リハビリテーションのどの段階に携わっているにしろ,その時点でのケースの方向性は不可欠のものであり,無理や無駄の少ない方向性は,全体の流れを見通す事のできる眼によって保証されるからである.
昭和54年当時,当センター作業療法スタッフが関心を抱いていた課題の一つに,身体障害者の就労の場を一般雇用関係,福祉工場,授産施設,もしくはその他といった観点から捉えた時,それぞれの集団構成員の作業能力には違いがあるのか,もしあるとすればそれはどのような違いなのかなどについて知りたいという事があった.無論このような調査から得られた数値は常に過去形であるから絶対の尺度とはなり得ないが,それでも前述の観点にたって大まかなスクリーニングを行おうとする際には一定の指針を与えるものと思われたし,さらに調査活動を通じて現場の実態に触れられるという事も大きな魅力と感じられた.
今回の調査は,この流れの中の一つと言える.すなわちその主たる目的は,ある社会福祉法人施設(N園)の重度授産,身障授産,福祉工場の三部門にそれぞれ従事する身体障害者の作業能力について,比較検討を行うという事である.
ところで,少し視点を広げてみると,具体的な就労活動には諸々の側面が考えられる.たとえば,職に就くとは通常個人と企業の相互の関係づけに端を発するものであるから,双方の既存のデータを照し合わせる事によって話を現実に定着させ,適切な範疇へとしぼりこんでいくという側面(体系への組み込み)や,それに留まらず新たにデータを打ち込んでいく,具体的にはよりヴィヴィッドにケースの活動性や就労場所を切り開いていくという側面(体系の開発)などである.もちろんこれらは,基木的にはそれぞれが欠く事のできぬものであって機に応じての使い分けが必要であり,またその前段階には<―情報のあらいだし―仮ゴールの設定―目的に沿った訓練―>という反復回路を伴っているのが通常であろう.さて,このような視点で今回の調査を位置づけてみると,極めて初期の仮ゴール設定に関係した予備的なスクリーニングに指標を提供するという役割に留まるであろうし,またそれ以上のものとはなり得ない事に留意しておかねばならないと考えている.
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