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Ⅰ.はじめに
てんかん患者の社会適応にとって,発作よりも心理面の問題が,より重要な障害因子となりやすいことが認識されるようになったのは比較的最近のことである15).わが国でも,最近,てんかん患者の社会適応について関心がもたれ,いくつかの調査・研究が4,8,11,21)報告されているが,そのいずれもが心理面の障害の合併,なかでも性格障害や情動障害の合併が,これら患者の適応障害の主たる原因となり勝ちであることを指摘している.
ところで,人格(性格)の形成には遺伝素因に加えて,成長過程における環境からの影響が大きく関与するものである.ところが,そこに何らかの病的過程の荷重が加わると,その人格形成にさらに別な影響が付加される可能性を生ずる.そこでは,すでに形成された人格の変化(崩壊)ということも起り得る.てんかんもこのような人格面の障害を伴う病気の一つと考えられ,実際,その観察からてんかん性格(体質)ということが謂われ,また,てんかん性性格変化(てんかん性本態変化ともいう)やてんかん性痴呆ということが指摘されてきた訳である.
てんかん患者の性格や知能面について,はじめて,その特徴を記載したのはKappadokiaのAretaeus(西暦1世紀)であるという.彼はこの病気が慢性化すると,全人格が侵されることになり,“無感動,無気力,残忍,社交嫌い,…物わかりがわるく,…”と記した(Temkin19)より).しかし,てんかんとその精神症状についての精神医学的な記述と研究が行われるようになったのは,19世紀も後半に入ってからのことであるといってよい.
Kohler12)は1850年から1971年までの約120年間に発表されたてんかんの精神障害に関する106の文献の内容を検討し,歴史的展望の下に,それらを巧みにまとめ,症状・状態像の分類を試みている(表1).もちろん,てんかんの精神障害については,この他にも様々な臨床分類が試みられ,発表されている.しかし,ここではてんかん患者の性格面の特徴をめぐる諸問題をとりあげ,それに対する考え方の歴史的な変遷についても若干触れながら,述べてゆくつもりであるので,参考のためにKohlerの表を挙げた.なお,紙面の都合で,ここではてんかんにみられる挿間性精神異常や慢性情神病症状については説明し得ないので,Kohlerの表を補う意味もあって,最近のBruens2)のてんかん性精神病の分類を挙げておこう(表2).
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