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はじめに
失行症・失認症が,現代のリハビリテーション医学でますます大きな位置を占めつつあること,また理学療法士,作業療法士の日常の仕事の上でもこれらの高次脳機能の障害を持つ患者の比重が大きくなりつつあることは強調するまでもない.しかし一方,リハビリテーションの実際に役立つように書かれた失行症・先認症に関する適切な入門書がほとんどなく,多くの人が学習に困難を感じていることも事実である.
筆者は数年前にそのような欠を少しでも埋めようと,本誌に「失行症・失認症をどう理解するか」というシリーズ1)の連載を始めたが,問題のあまりの大きさに力及ばずの感もあって臨床医学的研究の歴史を一応終えたところで僅か3回で中断してしまっていた.その後,「失行症・失認症とリハビリテーション」2)という論文で,リハビリテーション医学の中での失行症・失認症の位置づけ,また失行症・失認症という症状(機能障害,impairment)そのものの「治療」と,失行症・失認症を持つ患者の「リハビリテーション」(機能障害の治療を含むが,さらに全人的な能力障害<disability>,社会的不利<handicap>に対する対策を包括する)との異同などを論じた.今回新たな構想のもとに失行症・失認症に関する講座が企画され,その総論部分を担当することとなったが,上記の諸論文との重複を避け,リハビリテーション医学内でのこの問題の位置づけ,研究史注1)などは重要な問題ではあるが省くこととしたので,未見の方はぜひ上記論文を参照されたい.
なお,先の連載の頃から最近までに発表された失行・失認のリハビリテーションに関係の深い文献をいくつか紹介しておこう.
まず単行書では先に予告されていた秋元波留夫「失行症」が,1935(昭和10)年の初版発行後40年ぶりに現代日本語版となって復活し6),氏の強靭な論理に多くの人が直接触れることができるようになったことは意義深いことであった.それにつづいて,ルリヤの「神経心理学の基礎―脳のはたらき」7)が訳出された.これは先に英語版で出ていた“Working Brain”8)に近いが,異った点もあり,ロシア語原本からの直接訳である.これによって,ルリヤの「システム的・動的局在論」の立場に立つ研究業績がコンパクトな形で日本の読者に手の届くものになったことは喜ばしい.
リハビリテーション関係の雑誌論文では,「総合リハビリテーション誌の失行・失認特集(大橋9),上田2),福井10),大土井11),鎌倉12),第12回リハビリテーション医学会でのセミナーの記録(横山,上田,鎌倉・他13))などがあり,神経学・精神医学の分野では,「臨床精神医学」誌の神経心理学特集14),「神経研究の進歩」の失語・失行・失認の特集15)などが主要なものである.失行・失認の治療とリハビリテーションに関する研究は概して乏しいが,海外のものでは,Anderson16)の劣位頭頂葉症候群に対する作業療法プログラムの記載,Taylor17)の同様症状への知覚訓練の対照治療実験(差なし),Seron2)0の半側失認の認知の発達段階に沿った治験例,Weinberg2)1の劣位半球障害における読みの障害に対する視覚的スキャンニング訓練の対照治療実験(差あり)等がある.
また,ルリヤの指導を受けたデンマークのChristensenが「ルリヤの神経心理学的検査法」20)(解説書,マニュアル,テストカードの3つ組み)を発表しているのも興味ぶかい.
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