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1971年,アメリカの大衆雑誌“タイム”は,「われわれに自由はない」というスキナー博士(B.F. Skinner)の言明をタイトルにかかげ,博士が提唱する学習行動の変容理論,オペラント学説が,万能楽であるか,地獄へ辿る通路となるか,という発想で特集記事を組んだ.
紙面には,2匹の鳩によるピンポン場面や,当時27歳になった美術専攻の女子大生,娘デボラが,博士考案の養育実験箱の中で育てられている赤ん坊の時の様子等々,興味深い写真が掲載してある.
タイム紙が紹介しているピンポンのできる鳩や,第2次大戦中の鳩によるミサイル操縦訓練計画などのもつ意味は,条件さえ適切であれば,動物,ひいては人間の行動が,自由自在に変容できるのだ,という楽観的な面と,逆に統制された管理社会への恐怖というネガティブな面を暗示している.
タイム誌による特集は,スキナー学説の有するこの2面性にたいするジャーナリストの鋭敏な直観力にねざすものと思われる.だがこのような問題意識を,対岸の火事として見逃がすわけにはいかない.少なくとも,何らかのかたちで,ひととのかかわりあいを持つ職業に従事するわたしたちにとって,ことはより深刻なように思える.何故ならば,臨床家と呼ばれようと,教師と名付けられようと,子ども,あるいはひとの行動変容にたずさわるプロフェッショナルであるかぎり,好むと好まざるとにかかわらず,スキナー学説との出会いを避けることは不可能のように思えるからである.
さて筆者は,「行動変容理論について」という表題で,3回連続の講座をお引き受けしたが,既に本誌において関連論文1)を発表している.それは一種の論評であったが,今回はスキナー学説,つまりオペラント原理に基づく行動変容理論の全貌の解説を試みるつもりである.解説の順序は,Ⅰ.行動変容理論の基礎,Ⅱ.行動変容の技法,Ⅲ.展開,を予定している.教育現場と密接なかかわりあいをもつ研究者の立場から,筆をすすめていく.
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