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1.はじめに
片麻痺患者の評価,治療の過程において,患者は,しばしば,痛みを訴えることがあるが,そのなかでも,とくに,肩に痛みを訴える例は多く,患者を悩ますものの一つである.
七沢病院に,昭和48年度中に入院した片麻痺患者の中から,無作為に100名を選び出し,入院時評価の結果と,入院時評価会議の結果,肩に痛みと,関節可動域制限を有し,温熱療法(おもにホットパック)を行なったのちに,ROM ex.を必要とする理学療法依頼は45名にのぼり,45名中,32名は,発作後経過月数が,4か月以内のものであり,32名中,25名は,上肢Brunnstrom stage 4までのものであった.
このように,肩に痛みをもつ症例が多くみられる原因としては,肩,すなわち,肩甲帯および肩関節を含む機構の解剖学的・運動学的な複雑性,それに加わる麻痺,発病年齢が高いことなどが考えられる.
片麻痺の肩の痛みの原因となる疾患には,広義に用いられる肩関節周囲炎,すなわち,肩関節周囲の筋,腱,粘液包などにみられる障害のみでなく,関節包そのものの障害も含まれており,関節包炎,関節包の癒着(adhesive capsulitis),拘縮,粘液包炎,上腕二頭筋腱炎,棘上筋腱炎あるいは腱断裂などがおもにみられるものである.
肩の痛みは,麻痺をともなわなくとも,40歳を過ぎると,肩関節周囲組織の退行性変性にともなってみられることが多く,麻痺がある場合,その発症頻度は一層高いものとなる.
さらに,肩の痛みの原因となるものに,肩関節周囲筋の緊張異常が原因となって,ROM ex.時に痛みを訴える場合がある.また,発症頻度としては少ないが,異所性化骨(heterotopic bone formation)の出現,それに,末梢循環障害,筋,骨,皮膚の萎縮を主症状として,頚部から肩,腕,手指におよぶ広範囲にわたって痛みを訴える肩手症侯群(shoulder hand syndrome)がある.これらが,片麻痺患者の肩の痛みの原因となるおもなものである.
また,肩関節に訴える痛みのなかには,肩関節そのものの疾患によらない場合もある.すなわち,原因は,身体のほかの部にあり,放散する痛みを肩に訴える場合である.例をあげれば,狭心症の場合には,左肩に,胆のう疾患の場合には,右肩に痛みが放散したり,頚椎の椎間板ヘルニア,あるいは,変形性関節症,斜角筋症侯群の場合にも,肩に痛みが放散することがある.しかし,片麻痺をともなった肩の痛みは,多くの場合,運動痛とともに,運動制限が著明であることから,その鑑別は難しいものではない.
以下,ここでは,臨床観察から,症状による分類と治療方法についてのべてみたい.
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