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1.はじめに
脊柱および四肢関節などの深部組織,運動器に由来する痛みは,表在性の痛みとかなり異なった性質を示すもので,一般に疼く,局在のはっきりしない鈍痛であり,感情の快,不快とも結びつきやすい痛みである.腰痛に際しての痛みも,患者の言葉表現をそのままかりるならば「重くるしい,圧迫されるような,つれるような,かったるい,表現出来ない不快感」など色々あり,中胚葉性組織,深部組織に由来する痛みの性質を示している.脊柱も体幹の支柱であると共に関節と考えられるので,運動痛が問題になるし,疼痛と運動方向と必ず関係がみられる.すなわち,大部分の腰痛は,中腰すなわち前屈に際し,疼痛を発するし,他方,脊椎分離症などでは,後方伸展に際し発痛することが多い.
他方,不安定腰椎unstable backと考えられる脊椎支持性に問題のあるものでは,同一姿勢たとえば,坐位,立位などをとっていると,疲労感とともに鈍痛,不快感を覚えるにいたる.
またFacet syndromeと言われる小関節に滑液膜の嵌入したと想像される状態でも後方伸展が問題となる.
発病と時間的な関係も重要で,早期起床時に疼痛を訴えるものは,変形性脊椎症や,結合織炎の特徴であり,他方,夕方疲労時に疼痛を訴えるものは,不良姿勢の関与する静力学的腰痛といわれるもので,脊柱のアライメントの不良のため,特定の部位にのみ過度の機能的負担がかかり,筋肉の疲労を来した状態とも考えられる.
急性発症をみる「ぎっくり腰」「きっくらせんき」などでは,よく咳,くしゃみ,いきみなどのクモ膜下腔の内圧を高めるような操作で増悪するのが特徴で,根性神経痛の特徴としてあげられている.
腰痛に際し,忘れてならない痛みは,下肢の疼痛,それも両側性に来る間歇性跛行症であり,Bifurcation syndromeとか,Lériehe syndrome として有名な腹部大動脈分岐部の閉塞で両側性坐骨神経痛様疼痛を示すこともあるし,更に最近注目されて来た脊柱管狭窄症spinal canal stenosisでは馬尾部での圧迫で,神経学的所見に乏しく間欧性跛行症を来たす場合がある.
なお通常の腰痛症では,安静臥床により脊柱への負荷がなくなれば早晩いたみ緩解する筈であるが,安静臥床でも疼痛がとれず進行性に増悪し,気ままな出現を来たすものは,癌の脊椎転移を考えねばならない.老人においては,更年期後に骨粗鬆症を来たし,これを基礎として,病的脊椎圧迫骨折を来たし,何時までも頑固な疼痛を来たすことがあり,また,この状態と脊椎転移癌との鑑別が困難なこともしばしばである.以上の如き一般的な注意をはじめに述べ,重要な疾患の鑑別診断につきふれたいと思う.
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