The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 17, Issue 10
(October 1983)
Japanese
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Ⅰ.はじめに
“痛み”の解剖学は存在しないといわれる.たしかに,Aδ,C線維,外側脊髄視床路,前脊髄視床路,視床,頭頂葉など教科書的解剖学は立派に存在しているが,生理学的,生化学的,心理学的に眺めると,痛みは複雑,厄介なものであり解剖学だけでは説明できない面の多い不可思議なものといえる.
そもそも,痛みが主観的なものである以上,第3者がそれを客観的に正しく把握することは大変難しいといえる.さらに,痛みの要因の中には心理的要素がからまっているので,その複雑な状態や機序をうかがい知ることはほとんど不可能に近いともいえる.
リハビリテーション医学においては痛みが関与する分野が非常に多く,身体的障害にともなう痛みに加えて,慢性疾患特有の精神・心理学的要素がからまり,複難な痛みの像が形成されるものであり,とくにPT,OT,ナースなど訓練・指導・看護にあたるものの重大な関心事となっている.
痛覚を伝達する求心性神経の終末受容器は自由終末(free branch ending)であり,神経線維は脊髄後角に入った後は脊髄前交連で交差し,前・外側白質で前・外側脊髄視床路を形成し視床にいたる.
痛覚を伝達する神経線維にはAδ線維(有髄で直径1.0~5.0μ,伝達速度15~40m/秒)とC線維(無髄,直径0.3~1,5μ,伝達速度0.6~2m/秒)の2種類があることはよく知られており,Aδ線維とC線維の数の比は後根においては1:4,内臓神経では1:8~1:9とされ1),C線維のほうが数の上では圧倒的に多い.
痛覚神経線維は痛覚だけを伝達するとは限らない.この点,視神経が視覚だけを,また聴神経が聴覚だけを伝達するのと異なり,未分化な神経であるといえる.たとえばAδ線維は痛覚の他にも温度覚,触覚,圧覚なども伝えうるし,また逆に温度覚,触覚,圧覚などの刺激量が増大して組織破壊につながる場合にはすべて痛みとして伝わるもので,これらの感覚はいずれも完全には独立していない感覚であるといえる1).
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